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第7話
19・足して2で割れば
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「──はい?」
あ、やばい。あまりにも意味がわからなさすぎて、つい不躾な態度をとってしまった。
けれど、八尾さんは懐の深い人だ。特に気にする様子もなく、視線だけをこちらによこす。
「青野はさ、良くいえば『思慮深いやつ』なんだろうけど、実は必要以上にグダグダと考えこむとこがあるだろ。で、考えて考えて、考えているうちに脇道に逸れて、そこからおかしな方向に突っ走るんだよな」
「──もしかして俺、今、悪口言われてます?」
「言ってねぇよ。こんなの、ただの『個人の見解』だろうが」
いや、今のはどう考えても「個人の見解」という名の悪口だろう。実際、俺の悪い一面ばかりを指摘していたわけで。
思わずそうボヤくと、八尾さんは「なんだ、自覚あるんじゃねぇか」と朗らかに笑った。
「だったら、ついでにアドバイスっぽいこともしてやるけどよ」
大きな猫っぽい目に、力がこめられる。
「今、お前がいるべき場所はここじゃねぇ。こんなところでぼんやりしている場合じゃねぇ」
「でも、この列に並ばないと食券が……」
「飯より大事なものがあるだろうが! 自覚あるくせに誤魔化してんじゃねぇ、このヘタレが!」
パアンッ、とケツにケリが入った。そういえば、この人めちゃくちゃ足癖が悪いんだった。夏樹さんの形のいいお尻ですらしょっちゅう蹴飛ばして、俺をやきもきさせていたっけ。
「いいか青野、江頭だ。今は江頭を見習え」
「いや、それはどうかと……」
「まずは走れ、とりあえず走れ、心のまま走れ! 江頭みたいに、心の赴くまま突っ走れ! そうすりゃ、おのずと答えが見えてくる!」
なんだそれは、運動部の基礎トレーニングか? いや、今時の運動部員ですら、そんな無闇に走らされたりはしないだろう。
なのに、八尾さんはグイグイと俺を食券の列から押しだそうとする。
「考えるな! 感じろ! ただ走れ! とにかく走って走って、目的地まで突っ走れ!」
だから、無茶苦茶でしょう、それは。しかも、途中からなにかのパクリが入っていなかったか?
こんなひどい説得で、本当に走りだすヤツなんているはずがない。
──いや、いた。俺だ。
俺は今、なぜか学食を飛び出し、廊下を一目散に走っていた。
感じるままではないはずだけど、足はどうやら実験室エリアに向かっているらしい。目的地は、おそらく「あの場所」だ。どうなっているんだ、俺の本能センサーは。
当然、冷静な「もうひとりの俺」が、頭のなかで必死に抗議をしている。
どうした青野行春、止まれ、おかしいぞ、今のお前はどう見ても冷静じゃなさすぎる──
うるさい、知ったことか!
本能が一喝したせいで、走るスピードはよりいっそうあがった。
あっという間に西階段に到着し、2段飛ばしで駆けあがる。
途中、いちゃつくカップルとすれ違ったけど、そんなのどうだっていい。俺の頭のなかは今「あの人」のことでいっぱいなのだ。
わがままで自分本位で、そのくせ憎めない「大好きな人」とそっくりの「あの人」──
はあ、はあ、と息を弾ませながら、俺は最後の踊り場をまわった。
その先に、瞑想中のナツさんの姿があった。
あ、やばい。あまりにも意味がわからなさすぎて、つい不躾な態度をとってしまった。
けれど、八尾さんは懐の深い人だ。特に気にする様子もなく、視線だけをこちらによこす。
「青野はさ、良くいえば『思慮深いやつ』なんだろうけど、実は必要以上にグダグダと考えこむとこがあるだろ。で、考えて考えて、考えているうちに脇道に逸れて、そこからおかしな方向に突っ走るんだよな」
「──もしかして俺、今、悪口言われてます?」
「言ってねぇよ。こんなの、ただの『個人の見解』だろうが」
いや、今のはどう考えても「個人の見解」という名の悪口だろう。実際、俺の悪い一面ばかりを指摘していたわけで。
思わずそうボヤくと、八尾さんは「なんだ、自覚あるんじゃねぇか」と朗らかに笑った。
「だったら、ついでにアドバイスっぽいこともしてやるけどよ」
大きな猫っぽい目に、力がこめられる。
「今、お前がいるべき場所はここじゃねぇ。こんなところでぼんやりしている場合じゃねぇ」
「でも、この列に並ばないと食券が……」
「飯より大事なものがあるだろうが! 自覚あるくせに誤魔化してんじゃねぇ、このヘタレが!」
パアンッ、とケツにケリが入った。そういえば、この人めちゃくちゃ足癖が悪いんだった。夏樹さんの形のいいお尻ですらしょっちゅう蹴飛ばして、俺をやきもきさせていたっけ。
「いいか青野、江頭だ。今は江頭を見習え」
「いや、それはどうかと……」
「まずは走れ、とりあえず走れ、心のまま走れ! 江頭みたいに、心の赴くまま突っ走れ! そうすりゃ、おのずと答えが見えてくる!」
なんだそれは、運動部の基礎トレーニングか? いや、今時の運動部員ですら、そんな無闇に走らされたりはしないだろう。
なのに、八尾さんはグイグイと俺を食券の列から押しだそうとする。
「考えるな! 感じろ! ただ走れ! とにかく走って走って、目的地まで突っ走れ!」
だから、無茶苦茶でしょう、それは。しかも、途中からなにかのパクリが入っていなかったか?
こんなひどい説得で、本当に走りだすヤツなんているはずがない。
──いや、いた。俺だ。
俺は今、なぜか学食を飛び出し、廊下を一目散に走っていた。
感じるままではないはずだけど、足はどうやら実験室エリアに向かっているらしい。目的地は、おそらく「あの場所」だ。どうなっているんだ、俺の本能センサーは。
当然、冷静な「もうひとりの俺」が、頭のなかで必死に抗議をしている。
どうした青野行春、止まれ、おかしいぞ、今のお前はどう見ても冷静じゃなさすぎる──
うるさい、知ったことか!
本能が一喝したせいで、走るスピードはよりいっそうあがった。
あっという間に西階段に到着し、2段飛ばしで駆けあがる。
途中、いちゃつくカップルとすれ違ったけど、そんなのどうだっていい。俺の頭のなかは今「あの人」のことでいっぱいなのだ。
わがままで自分本位で、そのくせ憎めない「大好きな人」とそっくりの「あの人」──
はあ、はあ、と息を弾ませながら、俺は最後の踊り場をまわった。
その先に、瞑想中のナツさんの姿があった。
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