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第7話
14・いざ、ナツさんのもとへ
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他学年のフロアに出向くのは、上級生だろうと下級生だろうと、アウェイすぎてどうにも落ち着かない。
けれど、今の俺は無敵だ。それくらい、ナツさんに腹をたてているのだ。
よって、俺はまったくためらうことなく、ナツさんのクラスに直行した。
「すみません、ナツさんお願いします」
出入り口付近にいたナツさんのクラスメイトたちが「ナツ?」「誰?」と首を傾げた。
しまった、うかつだった。夏樹さんもナツさんも、クラスでは「星井」と呼ばれているのだ。いつもの俺なら、そのあたりも配慮して「星井さんいますか?」と訊ねていたはずなのに。
愕然とする俺のもとに「あれ、青野?」と救世主がやってきた。
「八尾さん、ナツさんはどこですか?」
「ナツ? あいつなら実験室エリアに行くって言ってたけど」
実験室エリア──そう聞いて、真っ先に浮かんだのは「告白」だ。まさか、ナツさんを好きだという奇特な誰かが、あの人を呼び出しでもしたのか!?
早口で「ありがとうございます」と伝えると、俺は実験室エリアに向かって駆け出した。
あとから思えば、なぜこんなに焦っていたのか、はなはだ疑問だ。
ナツさんが誰に告白されようが、俺には関係ない。むしろ、その相手と付き合うことになって「夏樹さんに成り代わる」なんてバカな行為をやめてくれたほうが、俺にとっては万々歳であるはずなのだ。
なのに、このときの俺はものすごい焦燥感にかられていた。なにがなんでも告白を阻止しなければ──そんな思いで、実験室エリアまで駆けつけたのだ。
まずは1階フロアを確認する。──いない。でも、ここで告白する生徒はごくまれだ。
すぐさま西階段を駆けあがる。
2階フロア。女子の声が聞こえてきて、俺の心臓が派手に跳ねあがる。けれど、それに応じる男子の声は──聞き覚えがない。つまり、ナツさんではない。
「よし」
なぜか小さく呟いて、俺はさらに3階へと向かった。
3階からは、男女複数の声が聞こえてきた。2人とかではない、4人とか5人とか。皆で笑いあっている感じからして、告白とかではなさそうだ。もしかしたら部活の集まりかもしれない。だとすると、そこにナツさんはいないだろう。
(ということは……)
残るは、このさらに上──行き止まりの踊り場だ。
俺がひとりになりたいとき、あるいは瞑想したいときに、こっそり訪れる秘密の場所。
そういえば、一度だけ、あそこでナツさんと瞑想したことがあった。
その際ナツさんは幽体離脱しかけて、そこから「『瞑想+α』で入れ替わりが発生するのではないか」との仮説が生まれて、なのにそのあとナツさんがメドゥーサ女と夜遊びしたり、俺がボコボコに殴られたり、とにかくいろいろありすぎたせいで、仮説の検証がまったくできていなくて──
(まさか)
ようやく思いついた、もうひとつの可能性。
でも、まさか──ナツさんは「元の世界に戻る」ことに積極的ではなかったはずだ。
そもそも、本当に俺のことが好きなら、そんなことをするはずがない。だって、元の世界に戻ってしまったら、ナツさんは俺に会えなくなってしまうじゃないか。
そうだ、やっぱり「それ」はあり得ない。
自分に言い聞かせるようにそう呟くと、俺は最上階の踊り場を確認した。
けれど、今の俺は無敵だ。それくらい、ナツさんに腹をたてているのだ。
よって、俺はまったくためらうことなく、ナツさんのクラスに直行した。
「すみません、ナツさんお願いします」
出入り口付近にいたナツさんのクラスメイトたちが「ナツ?」「誰?」と首を傾げた。
しまった、うかつだった。夏樹さんもナツさんも、クラスでは「星井」と呼ばれているのだ。いつもの俺なら、そのあたりも配慮して「星井さんいますか?」と訊ねていたはずなのに。
愕然とする俺のもとに「あれ、青野?」と救世主がやってきた。
「八尾さん、ナツさんはどこですか?」
「ナツ? あいつなら実験室エリアに行くって言ってたけど」
実験室エリア──そう聞いて、真っ先に浮かんだのは「告白」だ。まさか、ナツさんを好きだという奇特な誰かが、あの人を呼び出しでもしたのか!?
早口で「ありがとうございます」と伝えると、俺は実験室エリアに向かって駆け出した。
あとから思えば、なぜこんなに焦っていたのか、はなはだ疑問だ。
ナツさんが誰に告白されようが、俺には関係ない。むしろ、その相手と付き合うことになって「夏樹さんに成り代わる」なんてバカな行為をやめてくれたほうが、俺にとっては万々歳であるはずなのだ。
なのに、このときの俺はものすごい焦燥感にかられていた。なにがなんでも告白を阻止しなければ──そんな思いで、実験室エリアまで駆けつけたのだ。
まずは1階フロアを確認する。──いない。でも、ここで告白する生徒はごくまれだ。
すぐさま西階段を駆けあがる。
2階フロア。女子の声が聞こえてきて、俺の心臓が派手に跳ねあがる。けれど、それに応じる男子の声は──聞き覚えがない。つまり、ナツさんではない。
「よし」
なぜか小さく呟いて、俺はさらに3階へと向かった。
3階からは、男女複数の声が聞こえてきた。2人とかではない、4人とか5人とか。皆で笑いあっている感じからして、告白とかではなさそうだ。もしかしたら部活の集まりかもしれない。だとすると、そこにナツさんはいないだろう。
(ということは……)
残るは、このさらに上──行き止まりの踊り場だ。
俺がひとりになりたいとき、あるいは瞑想したいときに、こっそり訪れる秘密の場所。
そういえば、一度だけ、あそこでナツさんと瞑想したことがあった。
その際ナツさんは幽体離脱しかけて、そこから「『瞑想+α』で入れ替わりが発生するのではないか」との仮説が生まれて、なのにそのあとナツさんがメドゥーサ女と夜遊びしたり、俺がボコボコに殴られたり、とにかくいろいろありすぎたせいで、仮説の検証がまったくできていなくて──
(まさか)
ようやく思いついた、もうひとつの可能性。
でも、まさか──ナツさんは「元の世界に戻る」ことに積極的ではなかったはずだ。
そもそも、本当に俺のことが好きなら、そんなことをするはずがない。だって、元の世界に戻ってしまったら、ナツさんは俺に会えなくなってしまうじゃないか。
そうだ、やっぱり「それ」はあり得ない。
自分に言い聞かせるようにそう呟くと、俺は最上階の踊り場を確認した。
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