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第7話
13・連続スルーの果てに
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帰宅後、俺はメッセージアプリをたちあげた。
ナツさんに何か言わなければ……いや、けど──そんな葛藤を抱えたまま、メッセージを書いては消し、書いては消しを1時間ほど繰り返す。
その結果、ようやく完成したのがこれだ。
──「バイトは、やっぱり休んだほうがいいです」
後に、星井から「これを送ったの!? 空気読めなさすぎじゃない!?」とつっこまれたのだが、このときの俺は混乱の極みにいて、もはやどうすればいいのかわからなかったのだ。
果たして結果は──20時間が経過し、昼休みになった今もなお「既読」がつく気配はない。
「よかったじゃん、未読のままで」
星井は、頬杖をついたまま、昼食代わりのヨーグルトドリンクをズルズルとすすっている。標準体型なのにダイエット中だそうで、女子のそのあたりの心理が俺にはいまいち理解できない。
「ほら、チャンスだよ。送ったメッセージ、さっさと削除しなって。そのほうが身のためだよ」
「けど、もともと俺がナツさんを待っていたのは、バイトの件を伝えるためだったわけで──」
「そんなのどうだっていい。とにかく、その空気ドン無視なメッセージはやめときなって!」
星井があまりにも力説するので、俺はメッセージを削除することにした。このあたりのことも、おそらくダイエット同様、俺にはわからない機微のようなものがあるのだろう。
代わりに、彼女のアドバイスをもとに別のメッセージを送ることにした。
――「昨日はあれから大丈夫でしたか? よく眠れましたか? ナツさんのことが心配です」
我ながら、わざとらしすぎてゾワゾワする。けれど、女子にはこうした丁寧な対応が必要らしい。
いや、ナツさんは女子じゃないし――と思わなくもなかったが、星井から見れば、あの人は女子のカテゴリに入れるべき人らしい。俺もその気持ちはわからなくはなかったので、こうして実行に移したというわけだ。
なのに、放課後になっても、メッセージは未読のままだ。
それどころか、帰宅し、さらに日付が変わり、満月にはまだ足りない月が沈んで日が昇り、登校して、再び星井がヨーグルトドリンクをすするような時間帯になってもなお、既読マークはつかなかった。
なんだこれは、全然成果が出ていないじゃないか。
当然の権利としてクレームをつけた俺に、星井は「なに言ってんの」とどこ吹く風だ。
「私が指南したのは、あくまでメッセージ本文だし。それを開いてもらえないのは、青野のやらかしが原因でしょ」
「いや、そんな、やらかしってほどじゃ……」
改めて、一昨日のあれこれを振り返ってみる。
俺は、ただナツさんと話をしたかっただけだ。「飲食店のバイトは無理だからやめたほうがいい」と、あの人にアドバイスしたかっただけなんだ。
なのに、ナツさんは最初から喧嘩腰で、事実にそぐわない言いがかりをつけてきて、俺は俺らしくなくて、ナツさんもナツさんらしくて、そんなふたりがぶつかりあった──そりゃ、こじれもするだろう。
そもそも──そもそも、だ。
一昨日の件、悪いのは本当に俺なのか?
だとしたら理由は? ナツさんの好意に応えられなかったから? キスをせがまれても応じなかったから? そんな馬鹿げた話、あってたまるか。
あれこれ思い返しているうちに、なんだか腹が立ってきた。
結局、悪いのは全部あの人だ。夏樹さんになりかわろうなんて図々しいことを考えたバカなあの人のせいなのだ。
俺は、中身がまだ半分以上残っている弁当箱にふたをすると、勢いよく立ちあがった。
「ちょっと行ってくる」
どこに、とは口にしなかった。それにも関わらず、星井は「いってらっしゃーい」と気怠そうに手をはためかせた。
ナツさんに何か言わなければ……いや、けど──そんな葛藤を抱えたまま、メッセージを書いては消し、書いては消しを1時間ほど繰り返す。
その結果、ようやく完成したのがこれだ。
──「バイトは、やっぱり休んだほうがいいです」
後に、星井から「これを送ったの!? 空気読めなさすぎじゃない!?」とつっこまれたのだが、このときの俺は混乱の極みにいて、もはやどうすればいいのかわからなかったのだ。
果たして結果は──20時間が経過し、昼休みになった今もなお「既読」がつく気配はない。
「よかったじゃん、未読のままで」
星井は、頬杖をついたまま、昼食代わりのヨーグルトドリンクをズルズルとすすっている。標準体型なのにダイエット中だそうで、女子のそのあたりの心理が俺にはいまいち理解できない。
「ほら、チャンスだよ。送ったメッセージ、さっさと削除しなって。そのほうが身のためだよ」
「けど、もともと俺がナツさんを待っていたのは、バイトの件を伝えるためだったわけで──」
「そんなのどうだっていい。とにかく、その空気ドン無視なメッセージはやめときなって!」
星井があまりにも力説するので、俺はメッセージを削除することにした。このあたりのことも、おそらくダイエット同様、俺にはわからない機微のようなものがあるのだろう。
代わりに、彼女のアドバイスをもとに別のメッセージを送ることにした。
――「昨日はあれから大丈夫でしたか? よく眠れましたか? ナツさんのことが心配です」
我ながら、わざとらしすぎてゾワゾワする。けれど、女子にはこうした丁寧な対応が必要らしい。
いや、ナツさんは女子じゃないし――と思わなくもなかったが、星井から見れば、あの人は女子のカテゴリに入れるべき人らしい。俺もその気持ちはわからなくはなかったので、こうして実行に移したというわけだ。
なのに、放課後になっても、メッセージは未読のままだ。
それどころか、帰宅し、さらに日付が変わり、満月にはまだ足りない月が沈んで日が昇り、登校して、再び星井がヨーグルトドリンクをすするような時間帯になってもなお、既読マークはつかなかった。
なんだこれは、全然成果が出ていないじゃないか。
当然の権利としてクレームをつけた俺に、星井は「なに言ってんの」とどこ吹く風だ。
「私が指南したのは、あくまでメッセージ本文だし。それを開いてもらえないのは、青野のやらかしが原因でしょ」
「いや、そんな、やらかしってほどじゃ……」
改めて、一昨日のあれこれを振り返ってみる。
俺は、ただナツさんと話をしたかっただけだ。「飲食店のバイトは無理だからやめたほうがいい」と、あの人にアドバイスしたかっただけなんだ。
なのに、ナツさんは最初から喧嘩腰で、事実にそぐわない言いがかりをつけてきて、俺は俺らしくなくて、ナツさんもナツさんらしくて、そんなふたりがぶつかりあった──そりゃ、こじれもするだろう。
そもそも──そもそも、だ。
一昨日の件、悪いのは本当に俺なのか?
だとしたら理由は? ナツさんの好意に応えられなかったから? キスをせがまれても応じなかったから? そんな馬鹿げた話、あってたまるか。
あれこれ思い返しているうちに、なんだか腹が立ってきた。
結局、悪いのは全部あの人だ。夏樹さんになりかわろうなんて図々しいことを考えたバカなあの人のせいなのだ。
俺は、中身がまだ半分以上残っている弁当箱にふたをすると、勢いよく立ちあがった。
「ちょっと行ってくる」
どこに、とは口にしなかった。それにも関わらず、星井は「いってらっしゃーい」と気怠そうに手をはためかせた。
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