111 / 124
第7話
10・原因判明(その2)
しおりを挟む
「はぁっ!?」
思わず飛び出たすっとんきょうな声に、皆の視線が一斉に集中した。当然、教師にも「青野、どうした?」と問われ、俺は「すみません、ちょっと咳が……」とわざとらしく咳き込むはめになる。
真相は、休み時間に明らかになった。
「昨日、なっちゃんに訊かれたんだよね。あんたが、お兄ちゃんのどんなところを好きになったのかって。けど私、すぐには答えられなくて」
なるほど、その気持ちはわからなくはない。
なにせ、夏樹さんの素晴らしいところは無限に存在している。その膨大なデータからどのエピソードを選ぶべきか、迷いが生じるのは当然のことだ。
「悪かったな、俺が日頃語りすぎているせいで」
「そうなんだよねぇ、青野の『お兄ちゃん』語り、いつも長すぎてほとんど聞き流していたのが、さすがに今回はアダになったわ」
──うん? 今、聞き捨てならない発言があったような?
「けどさ、なっちゃん、ほんとしつこくて。私の部屋にあがりこんできて『教えてもらうまでここを出ない』なんて言うからさぁ、なんとか頑張って、ようやく思い出したのが『ラッキーバーガー』のバイトのことだったってわけ。ほら、あんた、しょっちゅう店に入り浸って、バイト中のお兄ちゃんのこと、キモ──うっとり眺めてたからさぁ」
その指摘について、十分すぎるほど心当たりがある。
たしかに、俺はひまさえあれば「ラッキーバーガー」を訪れて、夏樹さんの勇姿を心に刻み込んでいた。おかげで、この1年間「ラッキーバーガー」の季節限定メニューはほぼ制覇してしまったほどだ。俺にとって誇らしいその事実を、星井はだいたい「キモ」の一言で片付けるのだけれど。
「どうするんだよ。ナツさん、本気でバイトはじめるらしいぞ。しかも『今日』から」
「展開早すぎだよねぇ、あの怠け者ななっちゃんが」
けどさ、と星井はちろりと視線をよこす。
「それだけあんたに『本気』ってことじゃない? ある意味、すごいじゃん」
そんなことを言われても──困る。
どんなに好意を示されても、俺はそれには応えることはできない。星井はわりと簡単にけしかけてくるけれど、俺の夏樹さんへの想いはそんな安っぽいものではない。──ない、はずだ。たぶん。
「まあ、せっかくだし、久しぶりに『ラッキーバーガー』に行ってみれば?」
「は!? なんで俺が──」
「でも、なっちゃんのこと、気になるんでしょ。だったらその目でたしかめておいでよ。ちょうど、今日から新商品も出るみたいだし」
ほら、と星井が某SNSでのプロモーション告知を見せてくる。
そこには、期間限定ハンバーガーを片手に妙なポーズをとる女性アイドルと、微妙な宣伝文が踊っていた。
──「みんな、もう『もっちり』した!? 期間限定『もっちり月見バーガー』本日発売!」
思わず飛び出たすっとんきょうな声に、皆の視線が一斉に集中した。当然、教師にも「青野、どうした?」と問われ、俺は「すみません、ちょっと咳が……」とわざとらしく咳き込むはめになる。
真相は、休み時間に明らかになった。
「昨日、なっちゃんに訊かれたんだよね。あんたが、お兄ちゃんのどんなところを好きになったのかって。けど私、すぐには答えられなくて」
なるほど、その気持ちはわからなくはない。
なにせ、夏樹さんの素晴らしいところは無限に存在している。その膨大なデータからどのエピソードを選ぶべきか、迷いが生じるのは当然のことだ。
「悪かったな、俺が日頃語りすぎているせいで」
「そうなんだよねぇ、青野の『お兄ちゃん』語り、いつも長すぎてほとんど聞き流していたのが、さすがに今回はアダになったわ」
──うん? 今、聞き捨てならない発言があったような?
「けどさ、なっちゃん、ほんとしつこくて。私の部屋にあがりこんできて『教えてもらうまでここを出ない』なんて言うからさぁ、なんとか頑張って、ようやく思い出したのが『ラッキーバーガー』のバイトのことだったってわけ。ほら、あんた、しょっちゅう店に入り浸って、バイト中のお兄ちゃんのこと、キモ──うっとり眺めてたからさぁ」
その指摘について、十分すぎるほど心当たりがある。
たしかに、俺はひまさえあれば「ラッキーバーガー」を訪れて、夏樹さんの勇姿を心に刻み込んでいた。おかげで、この1年間「ラッキーバーガー」の季節限定メニューはほぼ制覇してしまったほどだ。俺にとって誇らしいその事実を、星井はだいたい「キモ」の一言で片付けるのだけれど。
「どうするんだよ。ナツさん、本気でバイトはじめるらしいぞ。しかも『今日』から」
「展開早すぎだよねぇ、あの怠け者ななっちゃんが」
けどさ、と星井はちろりと視線をよこす。
「それだけあんたに『本気』ってことじゃない? ある意味、すごいじゃん」
そんなことを言われても──困る。
どんなに好意を示されても、俺はそれには応えることはできない。星井はわりと簡単にけしかけてくるけれど、俺の夏樹さんへの想いはそんな安っぽいものではない。──ない、はずだ。たぶん。
「まあ、せっかくだし、久しぶりに『ラッキーバーガー』に行ってみれば?」
「は!? なんで俺が──」
「でも、なっちゃんのこと、気になるんでしょ。だったらその目でたしかめておいでよ。ちょうど、今日から新商品も出るみたいだし」
ほら、と星井が某SNSでのプロモーション告知を見せてくる。
そこには、期間限定ハンバーガーを片手に妙なポーズをとる女性アイドルと、微妙な宣伝文が踊っていた。
──「みんな、もう『もっちり』した!? 期間限定『もっちり月見バーガー』本日発売!」
10
お気に入りに追加
102
あなたにおすすめの小説
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。



塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
[BL]デキソコナイ
明日葉 ゆゐ
BL
特別進学クラスの優等生の喫煙現場に遭遇してしまった校内一の問題児。見ていない振りをして立ち去ろうとするが、なぜか優等生に怪我を負わされ、手当てのために家に連れて行かれることに。決して交わることのなかった2人の不思議な関係が始まる。(別サイトに投稿していた作品になります)

親衛隊は、推しから『選ばれる』までは推しに自分の気持ちを伝えてはいけないルール
雨宮里玖
BL
エリート高校の親衛隊プラスα×平凡無自覚総受け
《あらすじ》
4月。平凡な吉良は、楯山に告白している川上の姿を偶然目撃してしまった。遠目だが二人はイイ感じに見えて告白は成功したようだった。
そのことで、吉良は二年間ずっと学生寮の同室者だった楯山に自分が特別な感情を抱いていたのではないかと思い——。
平凡無自覚な受けの総愛され全寮制学園ライフの物語。

なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが
なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です
酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります
攻
井之上 勇気
まだまだ若手のサラリーマン
元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい
でも翌朝には完全に記憶がない
受
牧野・ハロルド・エリス
天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司
金髪ロング、勇気より背が高い
勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん
ユウキにオヨメサンにしてもらいたい
同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます

俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる