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第7話
7・素直ではない心
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「で、青野の心はグラグラ揺れてるわけだ?」
「揺れてない。そんなわけないだろう」
駅に向かう道すがら、隣に並んだ星井のひやかしに、俺はぴしゃりと返答した。
ちなみに、ナツさんは、あのあと「やっぱ勉強とか無理!」とひとりで先に帰ってしまっていた。あの人らしいといえばらしいけど、なんとなくひっかかりを覚えるのは気のせいだろうか。
「頑固だねぇ、青野は」
星井の声音には、どこかあきれたような響きがあった。
「さっさと素直になればいいのに」
「いたって素直だけど」
これこそが、まごうことなき「本音」だし。
「じゃあ、鈍いだけ?」
「鈍くない。そっちこそ、勝手に俺の気持ちを決めつけるな」
いつになく荒い口調になったものの、星井は「ハイハイ」と気にもとめていない。
「何度も言ってるけどさ、青野となっちゃんが裏で何をしていようが、私は気にしない。ただ、今日みたいに注目を集めやすいところで騒ぐのはやめて。へんな噂をたてられるの、マジで面倒くさすぎだし」
「それは──申し訳なく思っている」
たしかに、今日の図書館でのやりとりはまずかった。ナツさんがああした性格である以上、俺が冷静でいなければダメなんだ。
なのに、ついナツさんの言動に引きずられてしまう。つくづく、俺は未熟な人間だ。
内心ため息をついたところで、ふと帰り際のナツさんのことが脳裏をよぎった。
「あのさ、ちょっと星井の意見を訊かせてほしいんだけど」
「ん、なに?」
「ナツさん、俺たちより先に帰っただろ。あのとき──どう思った?」
少し迷って、あえて遠まわりな訊き方をする。
星井は「なにそれ?」と、首を傾げた。
「『どう』ってなにが?」
「いや、だから、なんていうか……ナツさんの様子が、いつもと違っていたというか……」
「そうだっけ? べつに普段どおりじゃなかった?」
──そうか、だったら俺の考えすぎだな。
その場はひとまずそれで納得した。なにせ、俺よりもナツさんと多く接している星井の意見だ、十分信頼に値する。
けれど、翌日──午前中の間、ナツさんは一度も俺たちの教室に現れなかった。今日の時間割なら、2時間目や3時間目の休み時間に、顔を出すかと思っていたのに。
(もしかして、休んでいるのか?)
そう思いもしたが、昼休みがはじまってすぐに星井が「そういえば、今日なっちゃん一度も来てなくない?」と確認してきたから、どうやら登校してはいるらしい。
俺は、いつもどおり星井と昼飯を食べることにした。
教室の出入口には、意識して目を向けないようにした。今、ちらりとでもそっちを見たら、星井に「もしかして、なっちゃんが来ないの気になってる?」と冷やかされかねない。なので、これは「ナツさんのことなんか気にしていない」という俺なりの意思表示でもある。
ところが、だ。
「そういえば、昨日のゲリラ配信でさぁ」
俺が昼飯の特大おにぎりを3つとも食べ終え、星井が最近話題の動画配信者の愚痴を言いかけたあたりで「青野いるか?」と聞き覚えのある声が届いた。
「あれ、八尾っちじゃん」
星井がひらひら手を振ると、八尾さんはまっすぐこちらにやってきた。
「よう、ちょっとツラ貸せ」
「……えっ、それ俺に言ってます?」
「お前の他に誰がいるんだよ」
とにかくツラを貸せ、話はそれからだ。
そう言って顎をしゃくった八尾さんは、どこか疲れ切っているようにも見えた。
「揺れてない。そんなわけないだろう」
駅に向かう道すがら、隣に並んだ星井のひやかしに、俺はぴしゃりと返答した。
ちなみに、ナツさんは、あのあと「やっぱ勉強とか無理!」とひとりで先に帰ってしまっていた。あの人らしいといえばらしいけど、なんとなくひっかかりを覚えるのは気のせいだろうか。
「頑固だねぇ、青野は」
星井の声音には、どこかあきれたような響きがあった。
「さっさと素直になればいいのに」
「いたって素直だけど」
これこそが、まごうことなき「本音」だし。
「じゃあ、鈍いだけ?」
「鈍くない。そっちこそ、勝手に俺の気持ちを決めつけるな」
いつになく荒い口調になったものの、星井は「ハイハイ」と気にもとめていない。
「何度も言ってるけどさ、青野となっちゃんが裏で何をしていようが、私は気にしない。ただ、今日みたいに注目を集めやすいところで騒ぐのはやめて。へんな噂をたてられるの、マジで面倒くさすぎだし」
「それは──申し訳なく思っている」
たしかに、今日の図書館でのやりとりはまずかった。ナツさんがああした性格である以上、俺が冷静でいなければダメなんだ。
なのに、ついナツさんの言動に引きずられてしまう。つくづく、俺は未熟な人間だ。
内心ため息をついたところで、ふと帰り際のナツさんのことが脳裏をよぎった。
「あのさ、ちょっと星井の意見を訊かせてほしいんだけど」
「ん、なに?」
「ナツさん、俺たちより先に帰っただろ。あのとき──どう思った?」
少し迷って、あえて遠まわりな訊き方をする。
星井は「なにそれ?」と、首を傾げた。
「『どう』ってなにが?」
「いや、だから、なんていうか……ナツさんの様子が、いつもと違っていたというか……」
「そうだっけ? べつに普段どおりじゃなかった?」
──そうか、だったら俺の考えすぎだな。
その場はひとまずそれで納得した。なにせ、俺よりもナツさんと多く接している星井の意見だ、十分信頼に値する。
けれど、翌日──午前中の間、ナツさんは一度も俺たちの教室に現れなかった。今日の時間割なら、2時間目や3時間目の休み時間に、顔を出すかと思っていたのに。
(もしかして、休んでいるのか?)
そう思いもしたが、昼休みがはじまってすぐに星井が「そういえば、今日なっちゃん一度も来てなくない?」と確認してきたから、どうやら登校してはいるらしい。
俺は、いつもどおり星井と昼飯を食べることにした。
教室の出入口には、意識して目を向けないようにした。今、ちらりとでもそっちを見たら、星井に「もしかして、なっちゃんが来ないの気になってる?」と冷やかされかねない。なので、これは「ナツさんのことなんか気にしていない」という俺なりの意思表示でもある。
ところが、だ。
「そういえば、昨日のゲリラ配信でさぁ」
俺が昼飯の特大おにぎりを3つとも食べ終え、星井が最近話題の動画配信者の愚痴を言いかけたあたりで「青野いるか?」と聞き覚えのある声が届いた。
「あれ、八尾っちじゃん」
星井がひらひら手を振ると、八尾さんはまっすぐこちらにやってきた。
「よう、ちょっとツラ貸せ」
「……えっ、それ俺に言ってます?」
「お前の他に誰がいるんだよ」
とにかくツラを貸せ、話はそれからだ。
そう言って顎をしゃくった八尾さんは、どこか疲れ切っているようにも見えた。
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