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第7話

4・「好き」の理由

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 それは、この人に告白されてから、ずっと気になっていたことでもあった。
 だって、出会ったばかりのナツさんは、俺のことを「恋人のそっくりさん」で「手頃な性欲解消相手」くらいにしか思っていなかったはずなのだ。
 なのに、今は俺に好かれるために「夏樹さんのふり」までしようとしてくれている。そうなった理由が、どうしても俺には思いあたらない。

「ええと──それって青野の好きなとこを教えて、ってこと?」
「いえ、そっちよりも『きっかけ』ですかね」
「きっかけ」
「そうです、俺を好きになった『きっかけ』を知りたいんです」

 ナツさんは、ぷらぷらと揺らしていた足を止めた。それから、上目遣いでこちらを見た。

「青野さ、助けてくれたじゃん。オレが、校門のとこで怖いお兄さんにボコボコにされそうになったとき」

 ああ、あの──メデューサ女の彼氏にやられたときのことか。
 ほんの一週間ほど前のことなのに、ずいぶん昔の出来事のような気がする。それくらい、この数日間でいろいろありすぎたってことなんだろうけれど。

「──で?」

 俺がナツさんの代わりにえらいめにあって、それから──?
 続きを待つようにナツさんを見つめたものの、目が合ったナツさんは「ん?」と不思議そうに首を傾げている。
 待ってくれ、まさか──

「それだけですか!?」
「そうだけど」
「いや、あんた……」

 さすがにチョロすぎないか?
 それに、メドゥーサ女の一件以前にも、俺が身を挺してナツさんを助けたことはあったはずだ。たとえば、ストーカー女の親友に、代わりに蹴りを入れられたときとか。
 そのあたりはスルーしたくせに、なぜ? これまでとの違いは?
 つい詰問調になってしまった俺に、ナツさんは「そんなの知らない!」と頬をふくらませた。

「とにかく、あのときの青野に、オレはドキドキしたの! だから、あれがきっかけなの!」
「いや、けど──そういうのって、いわゆる『吊り橋効果』とかじゃないんですか?」

 吊り橋効果とは、吊り橋を渡るときに感じる「不安」や「恐怖」を「恋愛のときめき」と錯覚するというやつだ。

「つまり、ナツさんはあのとき『自分が殴られるかも』ってドキドキしていたはずですよね? それを、助けに入った俺への恋愛感情と勘違いしただけなんじゃ……」

 説明すればするほど「おそらく、これだろう」という思いが強くなる。
 なのに、ナツさんは「うーん」と唸った。どうやらいまいち納得していないようだ。
 もしかして、説明が難しかったのだろうか。だとしたら、もう少し噛み砕いて説明しなおしたほうがいいのかもしれない。
 そんなことを考えていたら、ナツさんに「ねえ」と右手をとられた。

「青野、ここ触って」

 グイッと押しつけられたのは、ナツさんの左胸だ。
 えっ、なにするんだ、この人──と面食らった俺は、次の瞬間、別の意味で動揺するはめになった。

「ねえ、わかる? オレね、今、青野と一緒にいて、めちゃくちゃドキドキしてるの。これも吊り橋なんとかのせい?」

 いや、それは──
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