目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件

水野七緒

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第6話

14・ナツさんの浅知恵

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「つまり、アレだろ。ナツさんは、夏樹さんの真似をしているんだろう?」

 教室に戻る途中、星井とふたりきりになったところでそう指摘すると「ご明察めいさつ」と実に簡潔な答えが返ってきた。

「なっちゃん、昨日帰ってくるなり私の部屋にやってきてさぁ。『こっちの星井夏樹になりたい! どんなヤツか教えて!』って」

 なるほど、それに付き合わされたせいで、星井は朝からぐったりしていたというわけか。

「で、どう? なっちゃん、お兄ちゃんっぽく見えた?」
「ぜんぜん。天と地ほど違う」

 いくら外見が同じとはいえ、夏樹さんは唯一無二の存在だ。付け焼き刃なモノマネごときで、取って代わられるはずがない。

「でもさぁ、健気だと思わない? あのわがまま放題な、なっちゃんがだよ? 青野に好かれるために、自分を捨てようとしてるんだよ?」
「そんな大げさな……」
「でも、そういうことじゃん。『お兄ちゃんに成り代わりたい』って」

 星井は、あくびまじりに指摘する。寝不足に加えて昼飯を食べたばかりということもあって、どうやら眠気がピークのようだ。

「だからさ、裏では好きなだけいちゃいちゃしてくれていいよ」
「──は?」
「額田先輩のこともあるから、今、別れられるのは困るけど。こっそりいちゃいちゃする分には問題ないから。お兄ちゃんにも内緒にしといてあげる」

 理解ある彼女さんよろしく、星井は事もなげに言い放つ。けれど、そこそこ付き合いのある俺には、彼女の真意はすっかりお見通しだ。

「星井、今ぶっちゃけ『面倒くさい』って思ってるだろ」
「正解」

 だって、なっちゃん、うまくいくまでしつこそうなんだもん──そうボヤきながら、星井は再びあくびをした。

「もういいじゃん、お試しでもいいから一回付き合っちゃいなよ。なっちゃんがお兄ちゃんになりきれたら、それはもうあんたの好きな『星井夏樹』なわけでしょ?」
「ぜんぜん違うし、そんなのあり得ない」

 あのナツさんが夏樹さんになれるはずがないし、そもそも俺はナツさんに「夏樹さん」になってほしいわけじゃない。

(だって、ナツさんはナツさんだろう?)

 わがままで自由奔放で、俺のことをふりまわしてばかりで、そのくせどうしても憎めなくて、そういう「ナツさん」のこと、俺は──

「じゃあ、あとはどっちが先に折れるかだね」

 星井の言葉で、俺は我に返った。

「なっちゃんがあきらめるか、青野が根負けするか」

 そんなの、結果はすでに決まっている。

「俺は、絶対に根負けしない。だから俺が折れることはない」
「そう? でも、なっちゃんも引く気はないみたいだけどね」

 いやー楽しみだわー、と星井が心にもなさそうなことを口にしたところで、チャイムが昼休み終了を告げてきた。
 それは、まるで試合開始のゴングみたいに、俺のなかで鳴り響いた。
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