目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件

水野七緒

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第6話

12・違和感(その1)

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 さて、昼休み。
 中庭で、星井の「額田先輩語り」を半分聞き流しながら弁当を食べていると、頭上から「青野~」と聞き覚えのある声が降ってきた。

「いたー! 青野、オレもそっち行くねー!」

 ナツさんだ。ちなみに、自分のところの教室ではなく、俺たちの教室から顔を出している。
 隣にいた星井が「やっぱり見つかったか」と肩をすくめた。その口ぶりだと、どうやらこうなることをあらかじめ予想していたようだ。

「あのさ」

 数時間前の廊下でのやりとりを思いだし、俺は唐揚げをつまんでいた箸をおろした。

「星井、今朝忠告してくれただろ? ナツさんが本気で俺を落とそうとしているって」
「あーうん、言ったねー」
「あれ、本当に?」

 疑うような発言だったせいか、星井は「ん?」と顔をしかめた。

「なに? 冗談だと思ってる?」
「そうじゃないけど、あまりそんな感じがしないっていうか」

 むしろ、八尾さんとのいちゃいちゃを見せつけられたんだけど──との言葉は、半ば意地で飲み込む。それでも、俺の不信感はある程度は星井に届いたらしい。

「まあ、見てなって。本気のなっちゃん、マジでしつこいから。──私も、昨日はエラいめにあったし」

 うん? 今のはどういうことだ?
 詳しい事情を聞きだそうとしたところで、ナツさんの「青野~」という声が割り込んできた。

「よかった~、青野、一緒に食べよ」
「すみませんが、俺は星井と食べてますんで」
「いいよ、べつにナナセが一緒でも」

 いや、俺と星井が食べているところに、あなたが割り込んできたのですが。
 同じようなことを思ったのか、星井も「ちょっとぉ、その言い方なくない?」と抗議した。

「ていうか、なっちゃん図々しすぎ。青野は、私の彼氏だし」
「ハイ、嘘! 彼氏とか嘘! 青野の本命、ナナセじゃないし!」
「だとしても、それを承知の上で私たちは付き合ってますんでー」

 星井は余裕たっぷりに笑うと、さらにナツさんの耳元に唇を寄せた。

「あのさ、忘れてるみたいだから思い出させてあげるけど」

 今度は、コソコソと耳打ち。残念ながら、その声は小さすぎて俺のもとには届かない。
 一方、ナツさんは撃たれたように背筋を伸ばした。
 なんだ、何を言われたんだ?
 怪訝に思っていると、ナツさんが上目遣いで俺を見た。

「青野、今の忘れて」

 ──ハイ?

「オレ、ナナセとも仲良くごはん食べる! だってオレ、ナナセのお兄ちゃんだもん!」
「そうそう。それ、大事なことだから」
「うん! 俺、妹思いの良いお兄ちゃん!」

 元気いっぱい返事をすると、ナツさんは自分の弁当を取りだした。

(……なんだ、今の)

 ナツさんが? 星井のお兄さん?
 いや、実際そのとおりではあるんだけど──この人、これまでそんな振る舞いをしたことあったか? むしろ星井から「なっちゃんはお姉ちゃんって感じ」とまで言われていなかったか?
 内心モヤモヤしながら、弁当の唐揚げを口に運ぶ。
 すると、ナツさんが「あっ」と声をあげた。
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