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第6話

10・先手必勝を試みたものの

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 朝のSHRが終わり、1時間目の古文がはじまってからも、俺の頭のなかには星井の言葉がぐるぐると渦巻いていた。

(ナツさんはあきらめていない? しかも、俺を落とすつもり?)

 それって、もしやまた昨日みたいな肉体的接触を狙ってくる、ということだろうか。
 だとしたら、あまりにもバカだ。バカのひとつ覚えにも程がある。

(ていうか、本当にあきらめてないのか?)

 昨日あれだけはっきり拒絶したのだ、俺なら間違いなく心が折れる。
 なのに、ナツさんは違うらしい。バカなのか鈍いのか、しつこいのか、それとも――

(それだけ俺のことが好き――とか?)

 ──いやいや、この程度のことでほだされるな青野行春。そうやって情に流された結果、何度も痛い目にあってきたじゃないか。
 とりあえず、ナツさんと顔を合わせるのは当分の間避けよう。特に、誰もいないところでふたりきりになるのは絶対にダメだ。
 幸いにも、俺はナツさんのクラスの時間割りを把握している。今日は、2時間目の教室移動のときに廊下ですれ違う可能性があるから要注意だ。
 よって、古文の授業が終わるなり、俺は教室を飛び出した。とにかく今は、先手必勝。ナツさんとのエンカウントは絶対に避けないと。
 なのに、こういうときほど俺の積極性は空回りする運命にあるらしい。

「やだ、八尾引っ張んないで!」
「うるせぇ、こうでもしないとすぐサボるだろうが」

 聞き覚えのある声とともに、よく知るふたりが踊り場から現れた。

「あっ、青野!」

 弾けるようなナツさんの声に、俺は膝から崩れ落ちそうになった。
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