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第6話
8・ナツさん襲来(その5)
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ナツさんは「ふぎゃっ」とおかしな声をあげると、そのまま後ろにひっくり返った。
「ひどい! 青野、暴力反対!」
「そんなの、あんたが嫌がらせしてくるからでしょう!」
怒鳴ったとたん、鼻からどろりとしたものが垂れた。まずい、また鼻血だ。けれど、たかぶった感情はまったくおさまってくれる気配がない。
「嫌がらせなんかしてない! エッチなお誘いしただけじゃん!」
「それ自体が俺には嫌がらせなんですよ!」
ああ、くそ……血が流れ込んできて喉が気持ち悪い!
それでも、一度あふれだした感情は止まらない。ついでに鼻血も止まらない。
「最悪ですよあんた、ほんと最悪だ!」
「あ、青野……」
「夏樹さんならこんな悪ふざけしないのに! 絶対こんなひどいことしないのに!」
夏樹さんに会いたい。会いたい会いたい。もう嫌だ、俺が好きなのは夏樹さんのはずなのに。
(なんで、ナツさんにこんなにふりまわされなくちゃいけないんだろう)
涙目になりながら、俺は激しく咳き込んだ。興奮しすぎたのと血のにおいで、頭がひどくクラクラする。
さすがにこれ以上喋るのは限界で、俺はうつむき、改めて鼻を摘みなおした。
だから、今この瞬間、ナツさんがどんな表情をしていたのか、確かめることができなかった。
「帰る」
それは、小さな小さな声だった。
やがてドアを開く音が聞こえ、階段を下りる足音が遠ざかり、階下で「あら、ナツくん帰るの?」と母さんの声が聞こえてきた。
それに対して、ナツさんはなんらかの返答をしたのだろう。けれどその声は聞こえず、代わりに母さんの「そう、じゃあ、またいらっしゃいね」だけが俺の耳に届いた。
俺は、うつむいたまま動かなかった。
だって、俺は悪くない。
悪くない――よな?
「ひどい! 青野、暴力反対!」
「そんなの、あんたが嫌がらせしてくるからでしょう!」
怒鳴ったとたん、鼻からどろりとしたものが垂れた。まずい、また鼻血だ。けれど、たかぶった感情はまったくおさまってくれる気配がない。
「嫌がらせなんかしてない! エッチなお誘いしただけじゃん!」
「それ自体が俺には嫌がらせなんですよ!」
ああ、くそ……血が流れ込んできて喉が気持ち悪い!
それでも、一度あふれだした感情は止まらない。ついでに鼻血も止まらない。
「最悪ですよあんた、ほんと最悪だ!」
「あ、青野……」
「夏樹さんならこんな悪ふざけしないのに! 絶対こんなひどいことしないのに!」
夏樹さんに会いたい。会いたい会いたい。もう嫌だ、俺が好きなのは夏樹さんのはずなのに。
(なんで、ナツさんにこんなにふりまわされなくちゃいけないんだろう)
涙目になりながら、俺は激しく咳き込んだ。興奮しすぎたのと血のにおいで、頭がひどくクラクラする。
さすがにこれ以上喋るのは限界で、俺はうつむき、改めて鼻を摘みなおした。
だから、今この瞬間、ナツさんがどんな表情をしていたのか、確かめることができなかった。
「帰る」
それは、小さな小さな声だった。
やがてドアを開く音が聞こえ、階段を下りる足音が遠ざかり、階下で「あら、ナツくん帰るの?」と母さんの声が聞こえてきた。
それに対して、ナツさんはなんらかの返答をしたのだろう。けれどその声は聞こえず、代わりに母さんの「そう、じゃあ、またいらっしゃいね」だけが俺の耳に届いた。
俺は、うつむいたまま動かなかった。
だって、俺は悪くない。
悪くない――よな?
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