目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件

第6話

７・ナツさん襲来（その４）

　ナツさんからのレスキューに、母さんは「あらあら」と冷えたタオルを持ってやってきた。

「この子ねー、昔からよく鼻血をだすのよ。鼻粘膜が弱いのかしら」

　そうなのか？　あいにく俺自身にそんな記憶はないけれど。こんなふうに鼻血を流したのも、夏樹さんと運命的な出会いを果たしたあの日以来のことだ。

（それに、今日のは鼻粘膜が弱いせいじゃないし）

　だからといって、本当の理由など言えるはずがない。まさか、ナツさんに誘惑されてのぼせて鼻血がでました、だなんて。

「おばちゃん、このあとどうすればいいの？」
「そうねぇ、このまま鼻をつまんで様子見ねぇ」

　それで止まったらこっちのシャツに着替えなさい、と言い残して、母さんは部屋を出ていく。
　再びふたりきりになったとたん、ナツさんはジリジリと膝ですり寄ってきた。

「大丈夫？」

　大丈夫に見えますか、これが。どう考えてもダメでしょう。
　とはいえ、こんな状況では、さすがのナツさんも大人しくしてくれるだろう──などと希望的観測を抱いていた俺は、つくづくおめでたい人間だ。

「ねえ、鼻血だしたのオレのせい？　オレとのあれこれを想像して、興奮しちゃったせい？」

　にんまり笑うナツさんを、抗議の意味を込めて睨みつける。
　そんなこと、あってたまるか。ていうか、この状況でふつうそれを訊くか？　あまりにも人でなしすぎるだろう。
　なのに、ナツさんは「やっぱりね」と勝手にふむふむうなずいている。

「まあ、わかってたけどね。青野はオレの誘惑に勝てっこないって」

　いやいや、ぜんぜんわかってないでしょう！
　あなたのその解釈、俺の見解とは真逆ですよ？
　口をフガフガさせながらそんなことを訴えたけど、やっぱりナツさんには伝わっていない。
　それどころか、懲りずに俺の太腿に手をのばしてくる。

「ねぇ、今、青野にエッチなことをしたら、青野どうなっちゃうのかなぁ」

　は！？

「血まみれになっちゃう？　出血多量で、今度こそ大変なことになっちゃう？」

　ふざけるな、やめてくれ！

「ねえ、青野やっちゃう？　試しちゃう？」

　ついに堪忍袋の緒が切れた。俺は、自由になる右足で遠慮なくナツさんを蹴飛ばした。