目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件

水野七緒

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第6話

3・混乱中(その3)

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 がたん、がたん、と電車が減速する。
 今、乗っているのは下りの普通列車なので、とにかく停車する駅が多い。たぶん3分に一度の割合で、どこかの駅に止まり、乗客を吐き出している。そのノロノロ具合が今の俺にはちょうどいい。
 だって、あれからずっと頭がぼんやりしている。

 ――「青野、なっちゃんのこと好きでしょ。なっちゃんに恋してるでしょ」

 そんなわけない、と即答するはずだった。
 なのに、しなかった。
 いや、正確にはできなかった。頭の中が真っ白になったせいで。
 俺が我に返ったのは、星井に「やっぱりね」とため息をつかれたときだ。
 いやいや、それは違う、勘違いだ、あの人は夏樹さんじゃない、夏樹さんとは別人だ――
 慌ててそう主張した俺に、星井は「うん、わかってる」と静かに答えた。

 ――「だからさ、『なっちゃんに恋してるでしょ』って言ってんの。お兄ちゃんのことは関係なく」

 それに対して、俺はなんて答えただろう。
 正直覚えていない。むしろ、記憶に残っているのは、さらにそのあとの別れ際の星井の言葉だ。

 ――「青野、気づいてる? 以前私が同じようなことを指摘したとき、青野は速攻で否定したんだよ?」

 なんというクリティカルヒット。これがゲームなら「青野は、メンタルに1000のダメージをくらった」といったところだ。

(好き? 俺が? ナツさんを?)

 しかも、夏樹さんのこととは関係なく?

(――いや、それはない)

 百歩譲って、最近の俺はナツさんに惹かれているとしても、だ。
 
(そんなの、外見が夏樹さんだからだ)

 それ以外の理由はない。絶対、認められるわけがない。
 改めて自分の意志を確認したところで、電車は地元の駅に到着した。
 ホームを歩く足取りは、乗車前と比べでかなり軽い。おそらく、自分のなかで結論が出たせいだろう。

(そうだ、俺はもう二度とブレない)

 もし、また星井から同じ質問をされても、今度は間髪入れずに答えられるだろう。「俺が好きなのは夏樹さんだけであって、ナツさんは外見以外好きではない」――
 何度も復唱しているうちに、家に到着した。この期に及んで、帰宅が遅くなる旨を連絡していなかったことに気づいたが、今更どうにかなるものでもない。
 母さんからはたぶん小言をくらうだろう、と覚悟して、俺は玄関のドアを開いた。

「ただいま」

 そこで「うん?」と首を傾げたのは、たたきに見覚えのない革靴があったからだ。
 誰か来ているのだろうか。男物の靴だし、姉さんの知り合いとか?
 疑問の答えは、すぐに出た。

「おかえり、青野!」

 我が家のキッチンから、ナツさんが飛び出してきたことによって。
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このシリーズの前のお話です。よろしければ…
「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」


こちらはBL未満のお話です
「モフモフ野郎と俺の朝ごはん」
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