目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件

水野七緒

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第5話

17・帰り道(その4)

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(そうだ、そんなこともあった……)

 俺は、抱えていたリュックに顔をうずめた。
 今さらながら、自分が情けなくて仕方がなかった。
 だって、あの場で俺が伝えようとしていたことは、あくまでお礼だったはずだ。「その節は助けてくださってありがとうございます」──それだけなら、夏樹さんに迷惑をかけることはない。むしろ「ああ、あのときの!」と喜んでもらえたかもしれなかったのに。
 それすらもできなかったのは、ひとえに俺に勇気がなかったからだ。
 だって、必死に説明したにも関わらず、夏樹さんに「そんなことあったっけ?」って首を傾げられたら? しかも、その場を、ひそかにライバル視している八尾さんに見られたら?
 格好悪い。恥ずかしい。いたたまれない。
 だから、俺は動き出せなかった。頭のなかであれこれ妄想するだけにとどめて、現実と向き合うことを拒否したのだ。

 ──青野の意気地なし。

 ああ、まさにナツさんの言うとおり。俺は、どうしようもない意気地なしで、ただの格好つけだ。
 俺はのろのろと顔をあげると、再びスマホのメッセージアプリをたちあげた。
 ひとまず、ナツさんのアカウントのブロックを解除。けれど、それだけじゃ気が済まなくて、次の駅でいったん電車を下りることにした。
 自分なりにけじめをつけたかったし、それならたぶん早いほうがいい。
 あるいは、ただ単にナツさんの声を聞きたかっただけなのかもしれない。
 ホームに下りるなり通話ボタンを押すと、意外にもあっさりとつながった。受話口の向こうからは、かすかなざわめきが聞こえてくる。

「今、大丈夫ですか?」
『へーき。何?』
「ナツさんに、少しお話したいことがあって」

 すると、なぜか息をのむような音が聞こえてきた。

『ほんと!? オレもオレも! あのね、青野──』
「待ってください。できれば直接お話したいです」

 そう、こんな小さな端末越しではなく、目と目をあわせて伝えたい。

「ナツさん、今どちらにいますか?」
『えっ……ええと』
「今すぐにそちらに向かいます。どこにいるのか教えてくれませんか?」
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このシリーズの前のお話です。よろしければ…
「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」


こちらはBL未満のお話です
「モフモフ野郎と俺の朝ごはん」
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