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第5話
14・帰り道(その1)
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結局、仲直りできないまま、俺とナツさんは駅で別れた。
各駅停車の座席に腰を下ろしたとたん、どっと疲れが押し寄せてきた。
すっきりしない。不愉快だ。イライラする。その原因のひとつは、しつこいくらいよみがえる「あの言葉」のせいだ。
──意気地なし。
何度もナツさんからぶつけられた言葉。
そんなつもりはない。俺は、俺なりに考えた上で、この想いを夏樹さんには伝えないと決めたはずだ。なのに──
(なんで言い返せなかったんだ?)
何度自分に問いかけても、納得のいく答えが出てこない。
それどころか、カフェでのナツさんの、バカにするような眼差しが頭に散らついて仕方がない。
悔しい。ナツさんなんて、ただのわがまま人間のくせに。いつだって好きなようにふるまって、自分の気持ちばかり押しつけて、それで相手が傷ついたり困ったりしてもお構いなしで──そんな人に、どうしてあんなにも責められなければいけないんだ?
思い出せば出すほど、苛立ちが募っていく。
やっぱり、あの人にはもう関わらないほうがいいのかもしれない。あの人のせいでひどい怪我をしたし、へんな噂をたてられたし、貞操の危機(!?)まで訪れそうになったし。ある意味、先日のメドゥーサ女よりもナツさんのほうがよっぽど「不幸を呼ぶ男」だ。
(決めた……今度こそ、縁を切ってやる)
俺はメッセージアプリをたちあげると、勢いのままナツさんのアカウントをブロックした。
ざまーみろ。ナツさんなんて心の赴くままにヤバい女に手を出して、今度こそボコボコにされてしまえばいい。
どこかすがすがしい気持ちになった俺は、意気揚々とスマホを鞄に戻した。
折しも、電車はナツさんとメドゥーサ女がキスしていた駅に停車した。それだけのことで、俺のなかの不快指数が跳ね上がるように上昇する。
しかも、時間帯のせいか、けっこうな人数の乗客が乗り込んできた。それまでわずかに残っていた空席が、あっという間にいっぱいになってしまう。
読書でもしようかと鞄から文庫本を取り出したところで、座席に座り損ねたらしい女性が、俺の前に立った。
ワンピース姿でふくよかな──あれ、もしかしてこの人、妊婦か?
各駅停車の座席に腰を下ろしたとたん、どっと疲れが押し寄せてきた。
すっきりしない。不愉快だ。イライラする。その原因のひとつは、しつこいくらいよみがえる「あの言葉」のせいだ。
──意気地なし。
何度もナツさんからぶつけられた言葉。
そんなつもりはない。俺は、俺なりに考えた上で、この想いを夏樹さんには伝えないと決めたはずだ。なのに──
(なんで言い返せなかったんだ?)
何度自分に問いかけても、納得のいく答えが出てこない。
それどころか、カフェでのナツさんの、バカにするような眼差しが頭に散らついて仕方がない。
悔しい。ナツさんなんて、ただのわがまま人間のくせに。いつだって好きなようにふるまって、自分の気持ちばかり押しつけて、それで相手が傷ついたり困ったりしてもお構いなしで──そんな人に、どうしてあんなにも責められなければいけないんだ?
思い出せば出すほど、苛立ちが募っていく。
やっぱり、あの人にはもう関わらないほうがいいのかもしれない。あの人のせいでひどい怪我をしたし、へんな噂をたてられたし、貞操の危機(!?)まで訪れそうになったし。ある意味、先日のメドゥーサ女よりもナツさんのほうがよっぽど「不幸を呼ぶ男」だ。
(決めた……今度こそ、縁を切ってやる)
俺はメッセージアプリをたちあげると、勢いのままナツさんのアカウントをブロックした。
ざまーみろ。ナツさんなんて心の赴くままにヤバい女に手を出して、今度こそボコボコにされてしまえばいい。
どこかすがすがしい気持ちになった俺は、意気揚々とスマホを鞄に戻した。
折しも、電車はナツさんとメドゥーサ女がキスしていた駅に停車した。それだけのことで、俺のなかの不快指数が跳ね上がるように上昇する。
しかも、時間帯のせいか、けっこうな人数の乗客が乗り込んできた。それまでわずかに残っていた空席が、あっという間にいっぱいになってしまう。
読書でもしようかと鞄から文庫本を取り出したところで、座席に座り損ねたらしい女性が、俺の前に立った。
ワンピース姿でふくよかな──あれ、もしかしてこの人、妊婦か?
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