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第5話
12・いつものカフェにて(その2)
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俺は、口のなかのパンケーキをごくんと飲み込んだ。
「いや、知らないですね」
「なんで? 告白してないの?」
「してません。俺、あの人の妹の彼氏なんで」
ついでに、あの人の「義弟」を目指していますので──というのはさすがに心のなかにとどめておいたけれど、今の時点ですでにナツさんは頭のなかはクエスチョンマークだらけのようだ。
「あのさー、やっぱりそこんとこがよくわかんないんだけど。青野は、ナナセと付き合ってるんでしょ?」
「そうですね」
「なのに、好きなのは星井夏樹?」
「そうですね」
「それってどーゆーこと? こっちのオレと付き合えないから、代わりにナナセと付き合ってるってこと?」
「その指摘は間違ってはいませんけど、ナツさんの想像とはたぶん違っていると思います」
おそらく、ナツさんは「兄と付き合えないから、その代わりに妹と付き合っている」と考えているのだろう。
でも、俺のなかでは違う。あくまで「兄と付き合えないから、義弟になるべく妹に頼み込んだ」のだ。
「星井は、俺の本命が夏樹さんであることを知っています。その上で、お互いの利害が一致したので交際しています」
「う……ううん?」
「なので『夏樹さんの身代わり』というわけではないです。俺の想いをもっとも良い形で昇華させるために、俺は星井と付き合っています」
俺としては、この上なく丁寧に説明したつもりだ。
なのに、ナツさんはずっと黙り込んだまま。やがて「あーっ」と奇声を発して、子どものように足をバタつかせた。
「わかんない、やっぱり意味わかんない! なんで? なんで星井夏樹に告白しないの!?」
「ナツさん、声が大きすぎ……」
「でも、わかんないんだもん! なんで? なんで好きって言わないの!?」
「言ったところで成就しませんし……」
「そんなのわかんないって! オレ、あっちの青野に『好き好き』っていっぱい伝えたら、付き合ってもらえることになったし」
「それは、あなただからできることです」
俺には、そんな博打のようなことはできない。できるはずがない。
「それに、こっちの夏樹さんは気遣いの人なんです」
俺がしつこく迫ったら、間違いなく彼は胸を痛めるだろう。俺のことなんて「ごめん、無理」ってあっさり振ってしまえばいいのに、きっとあれこれ慮って、どうすれば傷つけずに断ることができるのか、これでもかと頭をめぐらせるはずだ。
「要するに、こっちの夏樹さんはあなたとは違うんです。だから、俺はあの人には告白しなかったし、これからもするつもりはありません」
これが、今の俺にできる精一杯。俺の、初恋の相手への誠意のつもりだ。
なのに、ナツさんは白々とした眼差しを向けてきた。
「なーんか青野、さっきからゴチャゴチャ言ってるけどさー」
目の前のストローに軽く歯を立てると、ナツさんはばっさり吐き捨てた。
「結局さ、青野は度胸がないんだよ」
「いや、知らないですね」
「なんで? 告白してないの?」
「してません。俺、あの人の妹の彼氏なんで」
ついでに、あの人の「義弟」を目指していますので──というのはさすがに心のなかにとどめておいたけれど、今の時点ですでにナツさんは頭のなかはクエスチョンマークだらけのようだ。
「あのさー、やっぱりそこんとこがよくわかんないんだけど。青野は、ナナセと付き合ってるんでしょ?」
「そうですね」
「なのに、好きなのは星井夏樹?」
「そうですね」
「それってどーゆーこと? こっちのオレと付き合えないから、代わりにナナセと付き合ってるってこと?」
「その指摘は間違ってはいませんけど、ナツさんの想像とはたぶん違っていると思います」
おそらく、ナツさんは「兄と付き合えないから、その代わりに妹と付き合っている」と考えているのだろう。
でも、俺のなかでは違う。あくまで「兄と付き合えないから、義弟になるべく妹に頼み込んだ」のだ。
「星井は、俺の本命が夏樹さんであることを知っています。その上で、お互いの利害が一致したので交際しています」
「う……ううん?」
「なので『夏樹さんの身代わり』というわけではないです。俺の想いをもっとも良い形で昇華させるために、俺は星井と付き合っています」
俺としては、この上なく丁寧に説明したつもりだ。
なのに、ナツさんはずっと黙り込んだまま。やがて「あーっ」と奇声を発して、子どものように足をバタつかせた。
「わかんない、やっぱり意味わかんない! なんで? なんで星井夏樹に告白しないの!?」
「ナツさん、声が大きすぎ……」
「でも、わかんないんだもん! なんで? なんで好きって言わないの!?」
「言ったところで成就しませんし……」
「そんなのわかんないって! オレ、あっちの青野に『好き好き』っていっぱい伝えたら、付き合ってもらえることになったし」
「それは、あなただからできることです」
俺には、そんな博打のようなことはできない。できるはずがない。
「それに、こっちの夏樹さんは気遣いの人なんです」
俺がしつこく迫ったら、間違いなく彼は胸を痛めるだろう。俺のことなんて「ごめん、無理」ってあっさり振ってしまえばいいのに、きっとあれこれ慮って、どうすれば傷つけずに断ることができるのか、これでもかと頭をめぐらせるはずだ。
「要するに、こっちの夏樹さんはあなたとは違うんです。だから、俺はあの人には告白しなかったし、これからもするつもりはありません」
これが、今の俺にできる精一杯。俺の、初恋の相手への誠意のつもりだ。
なのに、ナツさんは白々とした眼差しを向けてきた。
「なーんか青野、さっきからゴチャゴチャ言ってるけどさー」
目の前のストローに軽く歯を立てると、ナツさんはばっさり吐き捨てた。
「結局さ、青野は度胸がないんだよ」
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