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第5話
11・いつものカフェにて(その1)
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えげつない頬の腫れが引いたのは、週末に入ってからだった。痛みもほぼ引いたから、骨折やヒビが入っている可能性は極めて低いだろう。
そんなわけで、週明け──ようやく、約束していたおしゃれカフェに出向くことになった。てっきり「約束していたパンケーキをおごれ」と言われるかと思いきや、今日はナツさんがご馳走してくれるらしい。
「いいんですか?」
「いいの。オレだってたまにはおごったりするの!」
ほら選んで、とメニュー表を突きつけてくる。
今、目の前にいるのが夏樹さんなら、かっこつけて「ホットサンドとコーヒー」なんて答えるところだけれど、ナツさんにそんなことをする必要はない。
なので、遠慮なくブリュレパンケーキとカフェモカを頼んだ。ナツさんは「え、高……」と呟いたけど、俺の視線に気づいたとたん「いいよ、べつに!」と薄い胸をはってみせた。
パリパリのカラメルを崩しながらパンケーキを頬張っていると、ナツさんが何か言いたげにこっちを見た。
「どうしました? やっぱり割り勘に変更します?」
「違う! オレ、そんなケチなこと言わない!」
ぷっと頬をふくらませて否定したわりに、ナツさんはなかなか正解を口にしようとしない。
仕方がないので「じゃあ、なんです?」と俺から水を向けてみた。
「あの、さ」
「はい」
「あのとき、その……なんでオレのことを助けてくれたの?」
パリ、と小さな音をたててカラメルにヒビが入った。
様々な感情に心を揺さぶられたあと、俺は「まあ……助けてほしそうでしたから」と答えた。
「それだけ?」
「はい」
「本当に? こっちの星井夏樹を好きだから、とかじゃなくて?」
俺は、無言でナツさんを見つめ返した。
その視線をどう受け取ったのか、ナツさんは「うう」とか「その」とかモゴモゴと口を動かした。
「だって、ええと……この身体、いちおうこっちの星井夏樹のものだし」
「そう思っているなら、もう少し丁寧に扱ってください」
「うん……ごめん」
ごめんなさい、とナツさんは気まずそうに目を伏せた。
そんな彼を、俺はついまじまじと見てしまった。だって、今のナツさんはまるで借りてきた猫のようだ。
(いちおう反省しているんだな)
これでこそ、彼を庇ったかいがあるというもの──とはいえ、あんな暴力はもう二度と受けたくないし、受けるつもりもないけれど。
俺は、再びパンケーキを口に運んだ。パッと見、激甘っぽそうに見えるけど、実際はほろ苦いカラメルと生クリームが程よくマッチしていて、かなり食べやすい。これならあっという間にぺろりと平らげてしまいそうだ。
「あの、さ」
またもや、ナツさんが何か言いたげな視線を向けてきた。
「今度は何です?」
「何って、その……もうひとつ訊きたいことがあるというか」
「では、どうぞ」
手まで添えてうながすと、ナツさんはムッとしたように唇を引き結んだ。
「バカにしてる?」
「してません。それよりなんですか、訊きたいことって」
「ああ、うん……あのさ」
ナツさんはロイヤルミルクティーで唇を湿らすと、意を決したように顔をあげた。
「こっちの星井夏樹ってさ、青野の気持ちを知ってるの?」
そんなわけで、週明け──ようやく、約束していたおしゃれカフェに出向くことになった。てっきり「約束していたパンケーキをおごれ」と言われるかと思いきや、今日はナツさんがご馳走してくれるらしい。
「いいんですか?」
「いいの。オレだってたまにはおごったりするの!」
ほら選んで、とメニュー表を突きつけてくる。
今、目の前にいるのが夏樹さんなら、かっこつけて「ホットサンドとコーヒー」なんて答えるところだけれど、ナツさんにそんなことをする必要はない。
なので、遠慮なくブリュレパンケーキとカフェモカを頼んだ。ナツさんは「え、高……」と呟いたけど、俺の視線に気づいたとたん「いいよ、べつに!」と薄い胸をはってみせた。
パリパリのカラメルを崩しながらパンケーキを頬張っていると、ナツさんが何か言いたげにこっちを見た。
「どうしました? やっぱり割り勘に変更します?」
「違う! オレ、そんなケチなこと言わない!」
ぷっと頬をふくらませて否定したわりに、ナツさんはなかなか正解を口にしようとしない。
仕方がないので「じゃあ、なんです?」と俺から水を向けてみた。
「あの、さ」
「はい」
「あのとき、その……なんでオレのことを助けてくれたの?」
パリ、と小さな音をたててカラメルにヒビが入った。
様々な感情に心を揺さぶられたあと、俺は「まあ……助けてほしそうでしたから」と答えた。
「それだけ?」
「はい」
「本当に? こっちの星井夏樹を好きだから、とかじゃなくて?」
俺は、無言でナツさんを見つめ返した。
その視線をどう受け取ったのか、ナツさんは「うう」とか「その」とかモゴモゴと口を動かした。
「だって、ええと……この身体、いちおうこっちの星井夏樹のものだし」
「そう思っているなら、もう少し丁寧に扱ってください」
「うん……ごめん」
ごめんなさい、とナツさんは気まずそうに目を伏せた。
そんな彼を、俺はついまじまじと見てしまった。だって、今のナツさんはまるで借りてきた猫のようだ。
(いちおう反省しているんだな)
これでこそ、彼を庇ったかいがあるというもの──とはいえ、あんな暴力はもう二度と受けたくないし、受けるつもりもないけれど。
俺は、再びパンケーキを口に運んだ。パッと見、激甘っぽそうに見えるけど、実際はほろ苦いカラメルと生クリームが程よくマッチしていて、かなり食べやすい。これならあっという間にぺろりと平らげてしまいそうだ。
「あの、さ」
またもや、ナツさんが何か言いたげな視線を向けてきた。
「今度は何です?」
「何って、その……もうひとつ訊きたいことがあるというか」
「では、どうぞ」
手まで添えてうながすと、ナツさんはムッとしたように唇を引き結んだ。
「バカにしてる?」
「してません。それよりなんですか、訊きたいことって」
「ああ、うん……あのさ」
ナツさんはロイヤルミルクティーで唇を湿らすと、意を決したように顔をあげた。
「こっちの星井夏樹ってさ、青野の気持ちを知ってるの?」
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