目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件

水野七緒

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第5話

4・納得がいかない

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 そんなわけで、その日は悶々としたまま帰路についた。
 駅のホームで星井と別れるなり、俺はすぐさまメッセージアプリを開いた。
 といっても、何かを期待していたわけではない。単に「パンケーキをおごる」という約束を果たせなかったから、誰かさんから何かしらのクレームが届いているのでは、と思ったのだ。
 けれど、ナツさんとのTLに新着メッセージは特になかった。昼休みのそっけないやりとりが、未だ最新メッセージのままだ。
 仕方なく、俺はお詫びのスタンプを打ち込んだ。さらに「パンケーキをおごるの、いつにします?」と振ってみた。
 それなのに、いつまで待ってもメッセージは既読にならない。
 もしや、無視されているのか──いや、単に充電切れ、ということも考えられる。
 なんとか自分を励まして、俺はスマホを鞄に戻した。
 いい加減、ナツさんに振りまわされてばかりの自分が嫌になってきた。
 いっそ、もう彼に関わるのはやめようか。でも、あの身体は夏樹さんのものだと思うと、やっぱり放っておくことはできそうにない。

(そう、すべては夏樹さんのため)

 ナツさん自身のことはどうだっていい。
 あの暗い目も、わけのわからない発言も、俺には関係ない──


 と、思っていたはずだったのに。
 翌日の放課後、俺は3年生の下駄箱付近でひとりたたずんでいた。
 特にこれといった用事があるわけではない。強いて言うなら、ナツさんに送ったメッセージがいつまでも未読なことが気になっただけだ。
 ちなみに、星井情報によると、今朝のナツさんはいたって普段どおりだったらしい。

 ──「昨日は部屋に閉じこもってたから、ぜんぜん話せなかったけどさぁ、今朝はふつーに元気だったよ? 私と青野のことも、特に何も言ってこなかったし」

 だったら、なぜ俺が送ったメッセージは未読のままなのだろう。
 まさかブロックされた? ナツさんからの誘いを拒絶しただけで? でも、そんなの今に始まったことじゃない。それでブロックされるなら、もっと早い段階でそうなっていたはずだ。
 考えれば考えるほど納得がいかなくて、俺はひとり悶々とした。
 そんなときだ、下駄箱の向こうからよく知る声が聞こえてきたのは。

「えーそれマジで?」
「マジマジ。ナツもやってみろって」
「んーどうしよう……八尾次第かなぁ」

 間違いない、ナツさんと八尾さんだ。しかも、ナツさんは楽しそうにケラケラと笑い声をあげている。
 なんだ、これ? なんであの人、あんなにご機嫌なんだ?
 俺は、昨日からこんなにモヤモヤしているのに?
 なんだか何もかもがバカバカしくなってしまって、俺は素早くきびすを返した。もちろん、この場から立ち去るためだ。
 なのに、振り向いた先にたまたま女子生徒がいて、衝突を回避しようとした俺はそのまま尻餅をついてしまった。

「痛っ……」
「あっ、ごめん! 大丈夫?」
「大丈夫……です」

 軽く手をあげて、立ちあがろうとする。

「あれ、青野じゃん」

 最悪のタイミングで、声がかかった。
 振り返るまでもない──声の主は八尾さんだった。
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このシリーズの前のお話です。よろしければ…
「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」


こちらはBL未満のお話です
「モフモフ野郎と俺の朝ごはん」
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