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第5話
3・あり得ないこと
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星井の指摘に、不覚にも俺の頭のなかは真っ白になった。
「ない──それはない!」
俺が好きなのは、あくまで夏樹さんだ。だからこそ、彼からのいかがわしいお誘いに、俺はすべて「NO」をつきつけてきた。
まあ、ちょっとばかり俺のデリケートな部分がデリケートな反応をしてしまったことはあったけど、そんなのはただの生理現象だ。俺が本当に求めているのはあくまで「夏樹さん」なのだ。
「でも、ムカついてるでしょ。なっちゃんがサヤ先輩と浮気してるの」
……うっ。
「それに、向こうの青野となっちゃんのことも気になってるみたいだし?」
待ってくれ、それについては俺の言い分も聞いてくれ。
まず、ナツさんの浮気に腹をたてているのは、人としてどうかと思うからだ。元いた世界に恋人がいて、しかもそいつは「もうひとりの俺」だ。俺が「俺の代理」として怒りを表明してもおかしくはないだろう。
さらにもう1点。ナツさんの身体は、正しくは「夏樹さんの身体」だ。なのに、メドゥーサ女とあれやこれやしたら「夏樹さん」が汚されてしまう。俺は、それがどうしても許せないんだ。
「ふーん、なるほどね」
星井は、同意するようにうなずいた。けれど、そのわりに意味ありげな笑みを引っ込めようとはしない。
「じゃあ、向こうの青野のことが気になっているのは? 『偽装交際じゃないのか?』なんて言いだした理由は?」
「……それは……」
しばし悩んだ末、俺はぼそりと答えた。
「とりあえずノーコメントで」
「ほら、やっぱり『やきもち』だ」
「そうじゃない。ただ……ちょっと言いにくいことだから」
もし、ここで星井に説明しようとした場合、先ほどのナツさんの反応も伝えないといけなくなる。
そのことが、俺にはどうしても抵抗があった。たとえ星井であっても、気軽に話せることじゃないような気がしたんだ。
(だって、あんなナツさん、ただ事じゃない)
あれは、おそらく吹聴してはいけない類のものだ。
とはいえ、俺が懸念していた「偽装交際」の可能性は極めて低そうだ。なにせ、向こうの俺にはめちゃくちゃ尽くされていたようだし、そのことを星井には自慢していたみたいだし。
(でも、じゃあ、なんであんなことを言ったんだ?)
これじゃ、整合性がとれないよな?
もしかして、あれはただのお芝居だった? あるいは、星井に聞かせた「のろけ話」のほうが嘘だとか?
あれこれ考え込む俺を見て、星井は「ほらぁ」と勝ち誇ったように頬をほころばせた。
「青野、またなっちゃんのことを考えてるでしょ」
「……っ、そんなこと……」
「ハイ、図星! ハイ、なっちゃんに夢中!」
「そうじゃないって!」
何度否定しても、星井は持論を引っ込めない。
ふと、今朝彼女に言われたことが耳奥によみがえった。
──「そういえば星井って、お兄ちゃんのことが好きだったもんね」
あのときは「何を今更?」と首を傾げたけれど、ようやく腑に落ちた。星井はあの時点ですでに盛大な勘違いをしていたのだ。
(そうだ、これは彼女の勘違いだ)
だって、どう考えてもあり得ないだろう? ナツさんが、俺のなかで夏樹さんと同じポジションにおさまるだなんて。
「ない──それはない!」
俺が好きなのは、あくまで夏樹さんだ。だからこそ、彼からのいかがわしいお誘いに、俺はすべて「NO」をつきつけてきた。
まあ、ちょっとばかり俺のデリケートな部分がデリケートな反応をしてしまったことはあったけど、そんなのはただの生理現象だ。俺が本当に求めているのはあくまで「夏樹さん」なのだ。
「でも、ムカついてるでしょ。なっちゃんがサヤ先輩と浮気してるの」
……うっ。
「それに、向こうの青野となっちゃんのことも気になってるみたいだし?」
待ってくれ、それについては俺の言い分も聞いてくれ。
まず、ナツさんの浮気に腹をたてているのは、人としてどうかと思うからだ。元いた世界に恋人がいて、しかもそいつは「もうひとりの俺」だ。俺が「俺の代理」として怒りを表明してもおかしくはないだろう。
さらにもう1点。ナツさんの身体は、正しくは「夏樹さんの身体」だ。なのに、メドゥーサ女とあれやこれやしたら「夏樹さん」が汚されてしまう。俺は、それがどうしても許せないんだ。
「ふーん、なるほどね」
星井は、同意するようにうなずいた。けれど、そのわりに意味ありげな笑みを引っ込めようとはしない。
「じゃあ、向こうの青野のことが気になっているのは? 『偽装交際じゃないのか?』なんて言いだした理由は?」
「……それは……」
しばし悩んだ末、俺はぼそりと答えた。
「とりあえずノーコメントで」
「ほら、やっぱり『やきもち』だ」
「そうじゃない。ただ……ちょっと言いにくいことだから」
もし、ここで星井に説明しようとした場合、先ほどのナツさんの反応も伝えないといけなくなる。
そのことが、俺にはどうしても抵抗があった。たとえ星井であっても、気軽に話せることじゃないような気がしたんだ。
(だって、あんなナツさん、ただ事じゃない)
あれは、おそらく吹聴してはいけない類のものだ。
とはいえ、俺が懸念していた「偽装交際」の可能性は極めて低そうだ。なにせ、向こうの俺にはめちゃくちゃ尽くされていたようだし、そのことを星井には自慢していたみたいだし。
(でも、じゃあ、なんであんなことを言ったんだ?)
これじゃ、整合性がとれないよな?
もしかして、あれはただのお芝居だった? あるいは、星井に聞かせた「のろけ話」のほうが嘘だとか?
あれこれ考え込む俺を見て、星井は「ほらぁ」と勝ち誇ったように頬をほころばせた。
「青野、またなっちゃんのことを考えてるでしょ」
「……っ、そんなこと……」
「ハイ、図星! ハイ、なっちゃんに夢中!」
「そうじゃないって!」
何度否定しても、星井は持論を引っ込めない。
ふと、今朝彼女に言われたことが耳奥によみがえった。
──「そういえば星井って、お兄ちゃんのことが好きだったもんね」
あのときは「何を今更?」と首を傾げたけれど、ようやく腑に落ちた。星井はあの時点ですでに盛大な勘違いをしていたのだ。
(そうだ、これは彼女の勘違いだ)
だって、どう考えてもあり得ないだろう? ナツさんが、俺のなかで夏樹さんと同じポジションにおさまるだなんて。
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