目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件

水野七緒

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第4話

16・緊急事態回避…?

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「いい加減にしてください」

 俺は、震える声でナツさんに抗議した。

「あなたは別人です。俺が好きになった人じゃない」
「でも、身体は同じだよ?」
「中身が違う時点で、俺にとってはまったくの別人です」

 そう、この人は、俺が好きになった「星井夏樹」じゃない。俺が恋をしたのは、違う「星井夏樹」なのだ。
 一息にそう告げて、俺は深く息を吐き出した。
 よし、言った……言ってやった! これこそが、俺のまごうことなき本音だ。これまでは「夏樹さんを好き」なことは秘密だったから誤魔化すしかなかったけれど、もうその必要もない。だって、バレてしまったんだから。
 すっかり開き直った俺は「どうだ」とばかりにナツさんを見返した。
 けれど、誇らしげですらあったその気持ちは、すぐに霧散してしまった。
 ナツさんは──俺を見ていなかった。どこか仄暗い眼差しで、ぼんやりと自分の手元を見つめていた。

「知ってるよ」
「えっ」
「知ってるって、そんなの。結局、オレのことを好きなヤツなんてどこにもいないんだ」

 それは、俺への同意というよりも、思わずこぼれ落ちてしまった独り言のようだった。
 だからこそ、俺はどう反応すればいいのかわからなかった。
 だって、そんなことはないはずだ。
 少なくともあなたは、自分がいた世界の「青野行春」と付き合っていたのでしょう?
 喉元まで出かかったその言葉を、なぜか俺はうまく吐き出せない。ナツさんのまつ毛がわずかに震えているのを、ただ黙って見ているので精一杯だ。
 そんな状況を打破したのは、もうひとりの登場人物だった。

「あれ、なっちゃん、青野の隣に座るの?」

 電話を終えたらしい星井が「じゃあ、私こっちに座るね」と俺の向かいの席に飲み物を移動させる。
 ナツさんは、勢いよく立ちあがった。そして、自分の荷物をむんずと掴むと、何も言わずに店を出ていってしまった。

「えっ、ちょっと……なっちゃん?」

 当然、慌てたのは星井だ。

「青野、どうすんの!? なっちゃんを説得するんじゃなかったの!?」
「……」
「青野、聞いてる!?」

 もちろん聞いている。
 ただ、今はうまく頭が働かない。

「バレた」
「は!? なにが!?」
「俺が、夏樹さんを好きだってこと」

 星井は、数回瞬きしたあと「はぁぁっ!?」と傍迷惑な大声をあげた。
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