上 下
68 / 124
第4話

15・最悪な事態(その2)

しおりを挟む
「なに言ってるんですか!」

 俺は、すぐさまナツさんの手を払いのけた。

「相手とか、そんなの必要ないですし」
「でも青野、『星井夏樹』のことが好きなんでしょ?」

 ナツさんは、懲りずに俺の太ももに手をのばしてきた。

「言っとくけど、オレうまいよ? 男子も女子も、気持ちよくさせてあげるの得意だし」
「ですから、そういうのは……」
「ほんとだって! ほら、こんな感じでさぁ」

 ナツさんの手が、内股のきわどい部分をさすってくる。
 俺は、悲鳴をあげかけた。だって、こんなのおしゃれなカフェでやることじゃない。いや、どんな場所でも──たとえいかがわしいホテルだったとしても「妹の彼氏」にやっていいことではないはずだ。

「本当にやめてください、怒りますよ!」
「そのわりに呼吸荒いじゃん」
「荒くないです!」
「うそうそ。今、心臓バクバクしてるくせに」

 いたずらな親指が、さらにきわどい付け根をなぞる。たったそれだけで、俺の頭のなかは真っ白になった。
 だって、これは夏樹さんの手だ。夏樹さんが今、俺を甘く誘惑しているといっても過言ではないのだ。

「ねえ、青野……もっといいことしよ?」

 マズい、頭がクラクラしてきた。

「それでさ、オレのことも気持ちよーくしてよ。青野のおっきいので、オレのことをぐちゃぐちゃにして?」

 吐息のような囁きが、もう一度「おっきいの」と繰り返す。
 ごくん、と喉が鳴った。指摘されたとおり、心臓はバクバクしすぎて身体中が痛いほどだった。
 もう、いっそ誘惑に飲み込まれてしまおうか。このキラキラした目に、応えてしまおうか。

「ほら、青野……素直になりなって」

 指どおりの良さそうな髪の毛が、俺のこめかみをかすめた。
 その瞬間、俺の脳裏にあの図書室の光景がよみがえった。
 穏やかな寝息をたてて居眠りしている夏樹さん──その寝顔を独り占めしている自分。涙が出そうなほど幸せだった、あのひととき。
 俺は、まだ残っている理性を総動員させた。そして、半ば力まかせにナツさんの顔を押しやった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

ザ・兄貴っ!

BL
俺の兄貴は自分のことを平凡だと思ってやがる。…が、俺は言い切れる!兄貴は… 平凡という皮を被った非凡であることを!! 実際、ぎゃぎゃあ五月蝿く喚く転校生に付き纏われてる兄貴は端から見れば、脇役になるのだろう…… が、実は違う。 顔も性格も容姿も運動能力も平凡並だと思い込んでいる兄貴… けど、その正体は――‥。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

親衛隊総隊長殿は今日も大忙しっ!

BL
人は山の奥深くに存在する閉鎖的な彼の学園を――‥ 『‡Arcanalia‡-ア ル カ ナ リ ア-』と呼ぶ。 人里からも離れ、街からも遠く離れた閉鎖的全寮制の男子校。その一部のノーマルを除いたほとんどの者が教師も生徒も関係なく、同性愛者。バイなどが多い。 そんな学園だが、幼等部から大学部まであるこの学園を卒業すれば安定した未来が約束されている――。そう、この学園は大企業の御曹司や金持ちの坊ちゃんを教育する学園である。しかし、それが仇となり‥ 権力を振りかざす者もまた多い。生徒や教師から崇拝されている美形集団、生徒会。しかし、今回の主人公は――‥ 彼らの親衛隊である親衛隊総隊長、小柳 千春(コヤナギ チハル)。彼の話である。 ――…さてさて、本題はここからである。‡Arcanalia‡学園には他校にはない珍しい校則がいくつかある。その中でも重要な三大原則の一つが、 『耳鳴りすれば来た道引き返せ』

学園の支配者

白鳩 唯斗
BL
主人公の性格に難ありです。

BL学園の姫になってしまいました!

内田ぴえろ
BL
人里離れた場所にある全寮制の男子校、私立百華咲学園。 その学園で、姫として生徒から持て囃されているのは、高等部の2年生である白川 雪月(しらかわ ゆづき)。 彼は、前世の記憶を持つ転生者で、前世ではオタクで腐女子だった。 何の因果か、男に生まれ変わって男子校に入学してしまい、同じ転生者&前世の魂の双子であり、今世では黒騎士と呼ばれている、黒瀬 凪(くろせ なぎ)と共に学園生活を送ることに。 歓喜に震えながらも姫としての体裁を守るために腐っていることを隠しつつ、今世で出来たリアルの推しに貢ぐことをやめない、波乱万丈なオタ活BL学園ライフが今始まる!

漢方薬局「泡影堂」調剤録

珈琲屋
BL
母子家庭苦労人真面目長男(17)× 生活力0放浪癖漢方医(32)の体格差&年の差恋愛(予定)。じりじり片恋。 キヨフミには最近悩みがあった。3歳児と5歳児を抱えての家事と諸々、加えて勉強。父はとうになく、母はいっさい頼りにならず、妹は受験真っ最中だ。この先俺が生き残るには…そうだ、「泡影堂」にいこう。 高校生×漢方医の先生の話をメインに、二人に関わる人々の話を閑話で書いていく予定です。 メイン2章、閑話1章の順で進めていきます。恋愛は非常にゆっくりです。

処理中です...