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第4話
14・最悪な事態(その1)
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当然、俺はすぐさまスマホをテーブルに伏せた。
まずい、見られた。こっそり隠し撮りした夏樹さんの写真を、よりによってナツさんに。
俺の焦りに気づいたのか、ナツさんは「ふーん」と意味ありげに鼻を鳴らした。
「やっぱ、正解だ! ふーん……ふーん」
それからのナツさんの一連の動作は、驚くほど早かった。まず、のしかかっていた身体に体重をかけると、テーブルの上の俺のスマホに手をのばした。もちろん、俺はそれを阻止しようとした。けれど、ナツさんが遠慮なくのしかかってくるせいで、うまく身体を起こすことができない。
かくして、俺のスマホはあっという間にナツさんに奪われてしまった。
「なにするんですか、返してください!」
ダメ元で抗議してみたものの「いいじゃんいいじゃん」とナツさんはまるで意に介さない。しかも、俺の反撃を防ぐためか、あいかわらずのしかかった背中から退いてくれない。
「あれ、ロックがかかってる」
「当然でしょう。ほら、返して──」
「大丈夫、解除するから」
いやいや、無理でしょう。パスコードを知らないんだから。ひそかに悪態をつく俺の背後で、ナツさんはくふふと含み笑いを洩らした。
「どうせ誕生日とかだろ、ナナセの」
違いますね、大違い。
「──あれ、解除されない。じゃあ、青野の誕生日……」
それも違う。まあ、俺としてはそのままずっと間違い続けてほしいけど。たしか5回以上失敗すると、一定時間ロック解除できなくなるはずだし。
俺は、抗議をやめてナツさんの様子をうかがった。2度の失敗を経て、さすがのナツさんもちょっと慎重になったようだ。
しばらく沈黙したあと「じゃあ、これ?」とナツさんは再び番号を打ち込んだ。ずいぶん自信なさげだったあたり、もしかしたら当てずっぽうな番号を試してみたのかもしれない。
ところが、だ。
「うそ、できた!?」
今度は、俺が「は!?」と声をあげる番だった。
だって──俺のスマホのパスコードは、夏樹さんの誕生日だ。
「やば、青野と同じじゃん! ていうか、青野も青野だけど!」
テンション高めなナツさんの下で、俺は冷や汗が流れ落ちるのを感じていた。だって、別世界の青野行春とは違って、俺にとっての夏樹さんはあくまで「交際相手のお兄さん」だ。そんな人の誕生日をパスコードにしているだなんて、冷静に考えてみればおかしな話なのだ。
それでも、不幸中の幸いというべきか──現時点で、ナツさんはそのおかしさに気づいていない。ただ無邪気に「やったー、オレ賢い」と自画自賛の真っ最中だ。
頼む、このまま気づかないでくれ。「同じ青野」だったから「星井夏樹の誕生日をパスコードにしていた」と勘違いしていてくれ──
けれど、そんな俺の望みはいともあっさり打ち砕かれた。
「うわ、やば……このフォルダ、オレの写真ばっかりじゃん」
ダメだ、絶体絶命だ。
「これも……これもこれもこれも、ぜーんぶ『オレ』じゃーん……ていうか、こっちの世界の『星井夏樹』?」
耳元に落とされた、囁くような声。
そう、ナツさんは明らかに確信していた。この写真が、自分ではなく「夏樹さん」だということを。しかも、その意味までちゃんと正しく。
「へぇ、そう……ふーん」
ナツさんは、ようやく俺の背中から身体を起こすと、当たり前のように隣の椅子に腰を下ろした。そして、するりと、俺の内股に右手を滑らせてきた。
「いいよ、相手してあげても」
「……は?」
「ナナセに内緒で、青野の相手をしてあげる」
まずい、見られた。こっそり隠し撮りした夏樹さんの写真を、よりによってナツさんに。
俺の焦りに気づいたのか、ナツさんは「ふーん」と意味ありげに鼻を鳴らした。
「やっぱ、正解だ! ふーん……ふーん」
それからのナツさんの一連の動作は、驚くほど早かった。まず、のしかかっていた身体に体重をかけると、テーブルの上の俺のスマホに手をのばした。もちろん、俺はそれを阻止しようとした。けれど、ナツさんが遠慮なくのしかかってくるせいで、うまく身体を起こすことができない。
かくして、俺のスマホはあっという間にナツさんに奪われてしまった。
「なにするんですか、返してください!」
ダメ元で抗議してみたものの「いいじゃんいいじゃん」とナツさんはまるで意に介さない。しかも、俺の反撃を防ぐためか、あいかわらずのしかかった背中から退いてくれない。
「あれ、ロックがかかってる」
「当然でしょう。ほら、返して──」
「大丈夫、解除するから」
いやいや、無理でしょう。パスコードを知らないんだから。ひそかに悪態をつく俺の背後で、ナツさんはくふふと含み笑いを洩らした。
「どうせ誕生日とかだろ、ナナセの」
違いますね、大違い。
「──あれ、解除されない。じゃあ、青野の誕生日……」
それも違う。まあ、俺としてはそのままずっと間違い続けてほしいけど。たしか5回以上失敗すると、一定時間ロック解除できなくなるはずだし。
俺は、抗議をやめてナツさんの様子をうかがった。2度の失敗を経て、さすがのナツさんもちょっと慎重になったようだ。
しばらく沈黙したあと「じゃあ、これ?」とナツさんは再び番号を打ち込んだ。ずいぶん自信なさげだったあたり、もしかしたら当てずっぽうな番号を試してみたのかもしれない。
ところが、だ。
「うそ、できた!?」
今度は、俺が「は!?」と声をあげる番だった。
だって──俺のスマホのパスコードは、夏樹さんの誕生日だ。
「やば、青野と同じじゃん! ていうか、青野も青野だけど!」
テンション高めなナツさんの下で、俺は冷や汗が流れ落ちるのを感じていた。だって、別世界の青野行春とは違って、俺にとっての夏樹さんはあくまで「交際相手のお兄さん」だ。そんな人の誕生日をパスコードにしているだなんて、冷静に考えてみればおかしな話なのだ。
それでも、不幸中の幸いというべきか──現時点で、ナツさんはそのおかしさに気づいていない。ただ無邪気に「やったー、オレ賢い」と自画自賛の真っ最中だ。
頼む、このまま気づかないでくれ。「同じ青野」だったから「星井夏樹の誕生日をパスコードにしていた」と勘違いしていてくれ──
けれど、そんな俺の望みはいともあっさり打ち砕かれた。
「うわ、やば……このフォルダ、オレの写真ばっかりじゃん」
ダメだ、絶体絶命だ。
「これも……これもこれもこれも、ぜーんぶ『オレ』じゃーん……ていうか、こっちの世界の『星井夏樹』?」
耳元に落とされた、囁くような声。
そう、ナツさんは明らかに確信していた。この写真が、自分ではなく「夏樹さん」だということを。しかも、その意味までちゃんと正しく。
「へぇ、そう……ふーん」
ナツさんは、ようやく俺の背中から身体を起こすと、当たり前のように隣の椅子に腰を下ろした。そして、するりと、俺の内股に右手を滑らせてきた。
「いいよ、相手してあげても」
「……は?」
「ナナセに内緒で、青野の相手をしてあげる」
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