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第4話
12・甘い、しょっぱい(その1)
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スマホに表示されていたのは、夏樹さんの寝顔だ。
星井と偽装交際をはじめて1ヶ月ほど経ったころ、たまたま訪れた学校の図書室で、居眠りしている夏樹さんに出くわしたことがあったんだ。
あたたかな日だまりのなかで、夏樹さんはすぅすぅと穏やかな寝息をたてていた。指どおりの良さそうなやわらかな髪が頬にかかっていて、それがなんとも言えず俺の心を揺さぶった。
幸いにも、そのとき図書室にいたのは、俺たち以外では図書委員の女子ひとりだけ。しかも、その彼女は本棚をうろうろしていて、俺たちのほうはまったく見ていない。
俺は、恐る恐るスマホを取り出すと、カメラアプリを起動した。心臓がバクバクと高鳴った。これまで何度も隠し撮りをしてきたけれど、こんなにも近い距離で撮るのは初めてだ。
(すみません、夏樹さん)
心のなかで手を合わせつつ、俺は丸いアイコンをタップした。1枚だけ撮るつもりだったけれど、指先が震えていたせいか連写になってしまった。
パシャパシャパシャとシャッター音が響いて、俺は小さく声をあげた。
まずい、起きてしまう。
ごめんなさいごめんなさい、ごめんなさい。
実際、夏樹さんのまぶたがピクッと動き、俺はすぐさまスマホを後ろ手に隠した。緊張のせいか、てのひらが汗でじっとり濡れている。息を詰めるように彼の様子をうかがっていると、再び小さな寝息が聞こえてきた。
すぅ、すぅ……くぅ、くぅ……穏やかなその声を耳にしたとたん、俺は心が甘く痺れるのを感じた。
できることなら、このまま時間が止まってほしい。この寝顔を、ずっとずっと見ていたい。こんなふうに誰よりも近い特等席で、夏樹さんの寝顔を独り占めできたなら──
けれども、そんな俺の欲望はいともあっさり蹴散らされた。図書室のドアが開き、女子が3人ほど入ってきたのだ。
彼女たちは、いずれも青いラインの内履きを履いていた。つまり3年生──夏樹さんと同じ学年の人たちだ。
そのなかの一番派手な外見の女子が「あれ、星井じゃーん」と朗らかな声をあげた。そして、近づいてきたかと思うと、勢いよく夏樹さんの背中に抱きついたのである。
星井と偽装交際をはじめて1ヶ月ほど経ったころ、たまたま訪れた学校の図書室で、居眠りしている夏樹さんに出くわしたことがあったんだ。
あたたかな日だまりのなかで、夏樹さんはすぅすぅと穏やかな寝息をたてていた。指どおりの良さそうなやわらかな髪が頬にかかっていて、それがなんとも言えず俺の心を揺さぶった。
幸いにも、そのとき図書室にいたのは、俺たち以外では図書委員の女子ひとりだけ。しかも、その彼女は本棚をうろうろしていて、俺たちのほうはまったく見ていない。
俺は、恐る恐るスマホを取り出すと、カメラアプリを起動した。心臓がバクバクと高鳴った。これまで何度も隠し撮りをしてきたけれど、こんなにも近い距離で撮るのは初めてだ。
(すみません、夏樹さん)
心のなかで手を合わせつつ、俺は丸いアイコンをタップした。1枚だけ撮るつもりだったけれど、指先が震えていたせいか連写になってしまった。
パシャパシャパシャとシャッター音が響いて、俺は小さく声をあげた。
まずい、起きてしまう。
ごめんなさいごめんなさい、ごめんなさい。
実際、夏樹さんのまぶたがピクッと動き、俺はすぐさまスマホを後ろ手に隠した。緊張のせいか、てのひらが汗でじっとり濡れている。息を詰めるように彼の様子をうかがっていると、再び小さな寝息が聞こえてきた。
すぅ、すぅ……くぅ、くぅ……穏やかなその声を耳にしたとたん、俺は心が甘く痺れるのを感じた。
できることなら、このまま時間が止まってほしい。この寝顔を、ずっとずっと見ていたい。こんなふうに誰よりも近い特等席で、夏樹さんの寝顔を独り占めできたなら──
けれども、そんな俺の欲望はいともあっさり蹴散らされた。図書室のドアが開き、女子が3人ほど入ってきたのだ。
彼女たちは、いずれも青いラインの内履きを履いていた。つまり3年生──夏樹さんと同じ学年の人たちだ。
そのなかの一番派手な外見の女子が「あれ、星井じゃーん」と朗らかな声をあげた。そして、近づいてきたかと思うと、勢いよく夏樹さんの背中に抱きついたのである。
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