65 / 124
第4話
12・甘い、しょっぱい(その1)
しおりを挟む
スマホに表示されていたのは、夏樹さんの寝顔だ。
星井と偽装交際をはじめて1ヶ月ほど経ったころ、たまたま訪れた学校の図書室で、居眠りしている夏樹さんに出くわしたことがあったんだ。
あたたかな日だまりのなかで、夏樹さんはすぅすぅと穏やかな寝息をたてていた。指どおりの良さそうなやわらかな髪が頬にかかっていて、それがなんとも言えず俺の心を揺さぶった。
幸いにも、そのとき図書室にいたのは、俺たち以外では図書委員の女子ひとりだけ。しかも、その彼女は本棚をうろうろしていて、俺たちのほうはまったく見ていない。
俺は、恐る恐るスマホを取り出すと、カメラアプリを起動した。心臓がバクバクと高鳴った。これまで何度も隠し撮りをしてきたけれど、こんなにも近い距離で撮るのは初めてだ。
(すみません、夏樹さん)
心のなかで手を合わせつつ、俺は丸いアイコンをタップした。1枚だけ撮るつもりだったけれど、指先が震えていたせいか連写になってしまった。
パシャパシャパシャとシャッター音が響いて、俺は小さく声をあげた。
まずい、起きてしまう。
ごめんなさいごめんなさい、ごめんなさい。
実際、夏樹さんのまぶたがピクッと動き、俺はすぐさまスマホを後ろ手に隠した。緊張のせいか、てのひらが汗でじっとり濡れている。息を詰めるように彼の様子をうかがっていると、再び小さな寝息が聞こえてきた。
すぅ、すぅ……くぅ、くぅ……穏やかなその声を耳にしたとたん、俺は心が甘く痺れるのを感じた。
できることなら、このまま時間が止まってほしい。この寝顔を、ずっとずっと見ていたい。こんなふうに誰よりも近い特等席で、夏樹さんの寝顔を独り占めできたなら──
けれども、そんな俺の欲望はいともあっさり蹴散らされた。図書室のドアが開き、女子が3人ほど入ってきたのだ。
彼女たちは、いずれも青いラインの内履きを履いていた。つまり3年生──夏樹さんと同じ学年の人たちだ。
そのなかの一番派手な外見の女子が「あれ、星井じゃーん」と朗らかな声をあげた。そして、近づいてきたかと思うと、勢いよく夏樹さんの背中に抱きついたのである。
星井と偽装交際をはじめて1ヶ月ほど経ったころ、たまたま訪れた学校の図書室で、居眠りしている夏樹さんに出くわしたことがあったんだ。
あたたかな日だまりのなかで、夏樹さんはすぅすぅと穏やかな寝息をたてていた。指どおりの良さそうなやわらかな髪が頬にかかっていて、それがなんとも言えず俺の心を揺さぶった。
幸いにも、そのとき図書室にいたのは、俺たち以外では図書委員の女子ひとりだけ。しかも、その彼女は本棚をうろうろしていて、俺たちのほうはまったく見ていない。
俺は、恐る恐るスマホを取り出すと、カメラアプリを起動した。心臓がバクバクと高鳴った。これまで何度も隠し撮りをしてきたけれど、こんなにも近い距離で撮るのは初めてだ。
(すみません、夏樹さん)
心のなかで手を合わせつつ、俺は丸いアイコンをタップした。1枚だけ撮るつもりだったけれど、指先が震えていたせいか連写になってしまった。
パシャパシャパシャとシャッター音が響いて、俺は小さく声をあげた。
まずい、起きてしまう。
ごめんなさいごめんなさい、ごめんなさい。
実際、夏樹さんのまぶたがピクッと動き、俺はすぐさまスマホを後ろ手に隠した。緊張のせいか、てのひらが汗でじっとり濡れている。息を詰めるように彼の様子をうかがっていると、再び小さな寝息が聞こえてきた。
すぅ、すぅ……くぅ、くぅ……穏やかなその声を耳にしたとたん、俺は心が甘く痺れるのを感じた。
できることなら、このまま時間が止まってほしい。この寝顔を、ずっとずっと見ていたい。こんなふうに誰よりも近い特等席で、夏樹さんの寝顔を独り占めできたなら──
けれども、そんな俺の欲望はいともあっさり蹴散らされた。図書室のドアが開き、女子が3人ほど入ってきたのだ。
彼女たちは、いずれも青いラインの内履きを履いていた。つまり3年生──夏樹さんと同じ学年の人たちだ。
そのなかの一番派手な外見の女子が「あれ、星井じゃーん」と朗らかな声をあげた。そして、近づいてきたかと思うと、勢いよく夏樹さんの背中に抱きついたのである。
10
お気に入りに追加
102
あなたにおすすめの小説

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話
みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。
数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

俺の親友のことが好きだったんじゃなかったのかよ
雨宮里玖
BL
《あらすじ》放課後、三倉は浅宮に呼び出された。浅宮は三倉の親友・有栖のことを訊ねてくる。三倉はまたこのパターンかとすぐに合点がいく。きっと浅宮も有栖のことが好きで、三倉から有栖の情報を聞き出そうとしているんだなと思い、浅宮の恋を応援すべく協力を申し出る。
浅宮は三倉に「協力して欲しい。だからデートの練習に付き合ってくれ」と言い——。
攻め:浅宮(16)
高校二年生。ビジュアル最強男。
どんな口実でもいいから三倉と一緒にいたいと思っている。
受け:三倉(16)
高校二年生。平凡。
自分じゃなくて俺の親友のことが好きなんだと勘違いしている。


男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる