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第4話
11・禁断のフォルダ
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放課後、俺と星井はいつものカフェに向かった。
もちろん、ナツさんにパンケーキをおごる──と見せかけて、メドゥーサ女と別れるように説得するためだ。
それなのに、肝心のナツさんがなかなか現れない。
「なっちゃん、遅いね」
「メッセージ送ってみるよ」
「あー大丈夫、今、連絡きた。さっき学校を出たって」
星井が「ほら」とメッセージアプリの画面を見せてくれる。そのことに、またもやモヤついた。声をかけたのも、パンケーキをおごると約束したのも俺なのに、なぜ星井に連絡がいくのだろう。
たしかに、あのあとナツさんに「星井も来ます」とは伝えはしたけど、やっぱりどうにも釈然としない。
(もしかして、避けられてる……のか?)
だとしたら理由は? 特にケンカなどをした覚えはないのだけれど。
強いて言うなら、少し前──緊急ミーティングをした日のナツさんの態度が気にかかってはいるけれど、それは今のこの状況につながるほどのことだったか?
答えが出ずに悶々としていると、星井が「あっ」と立ちあがった。
「ごめん、ちょっと電話してくる」
「ああ、うん」
わざわざ席を外すということは、俺にはあまり聞かれたくない内容なのだろう。彼女の背中が店の外に消えていったのを確認して、俺はスマホを手に取った。
メッセージアプリを開いてみたものの、特に新着メッセージは届いていなかった。やっぱり、ナツさんからのメッセージは星井にしか送られていなかったようだ。
(まあ、いいけど……)
絶対、俺に連絡をよこさなければいけないわけではないし。トーク画面を閉じたところで、ふと朝の星井の言葉が脳裏によみがえった。
──「そういえば星井って、お兄ちゃんのことが好きだったもんね」
数時間経ってもなお、あの言葉は俺の心に引っかかりつづけている。
だって、俺はもうずっと夏樹さん一筋だ。夏樹さんが初恋で、彼を好きになって以来、他の誰かに心を奪われたことなんて一度たりともない。そのことは星井もよく知っているはずで、なんなら俺の片想いに巻き込まれた被害者のようなポジションだったはずなんだけど、そんな彼女がなぜあんな呟きを洩らしたのか。
「解せない」
小さくこぼして、俺は目の前のブレンドコーヒーをちびりとすすった。ちなみに、俺はコーヒーが特に好きなわけではない。ただ、今日はナツさんにパンケーキをおごらなければいけないので、渋々一番安い飲み物を頼んだだけだ。
口内にじわりと苦味が広がったところで、俺は再びスマホをタップした。
久しぶりに開いたのは、クラウド内の禁断のフォルダ──俺の「夏樹さんコレクション」だ。
この1年ちょっと、俺は夏樹さんの写真を細々と集めてきた。とはいえ、堂々と公表できるのは、3人でテスト勉強をしたとき、星井が「お兄ちゃん、青野、こっち向いて」と声をかけた上で撮ってくれた2ショット写真1枚のみで、残りは隠し撮りだったり、星井がこっそり送ってくれたものだったり、八尾さんのSNSにアップされた写真をスクショしたものだったり──つまり褒められたものではない。ゆえに「禁断のフォルダ」と呼んでいるというわけだ。
その「禁断のフォルダ」に、俺は久しぶりにアクセスした。あとから思えばうかつすぎる行為だったけれど、このときの俺は無性に夏樹さんに会いたくて仕方がなかったんだ。
まずは、自宅でクッションを抱えている横顔が表示された。こんなレアなものは、もちろん身内である星井しか撮ることができない。メッセージアプリで送られてきたときは「ふぁっ」とへんな声が出たのも記憶に新しい。
次に表示されたのは、昼休みにこっそり隠し撮りした笑顔の写真。その次は、SNSにアップされて俺の胸をちりりと焦がした八尾さんとの2ショット。
さらに、ボヤけた後ろ姿、笑顔、また笑顔、真剣そうな横顔と、様々な夏樹さんがディスプレイにあらわれた。
ああ、好きだ。たまらなく好きだ。どうしようもなく好きだ。この人以外に恋をする俺なんて、想像できるはずがない。
禁断の写真を1枚ずつ眺めながら、俺はほうと息を吐いた。こんなふうに、甘く心を痺れさせてくれる存在は、やはり夏樹さんだけなのだ。
1枚、また1枚と、脳裏に焼きつけるように写真を見つめる。
と、ある写真のところで指が止まった。
(これ、たしか……)
もちろん、ナツさんにパンケーキをおごる──と見せかけて、メドゥーサ女と別れるように説得するためだ。
それなのに、肝心のナツさんがなかなか現れない。
「なっちゃん、遅いね」
「メッセージ送ってみるよ」
「あー大丈夫、今、連絡きた。さっき学校を出たって」
星井が「ほら」とメッセージアプリの画面を見せてくれる。そのことに、またもやモヤついた。声をかけたのも、パンケーキをおごると約束したのも俺なのに、なぜ星井に連絡がいくのだろう。
たしかに、あのあとナツさんに「星井も来ます」とは伝えはしたけど、やっぱりどうにも釈然としない。
(もしかして、避けられてる……のか?)
だとしたら理由は? 特にケンカなどをした覚えはないのだけれど。
強いて言うなら、少し前──緊急ミーティングをした日のナツさんの態度が気にかかってはいるけれど、それは今のこの状況につながるほどのことだったか?
答えが出ずに悶々としていると、星井が「あっ」と立ちあがった。
「ごめん、ちょっと電話してくる」
「ああ、うん」
わざわざ席を外すということは、俺にはあまり聞かれたくない内容なのだろう。彼女の背中が店の外に消えていったのを確認して、俺はスマホを手に取った。
メッセージアプリを開いてみたものの、特に新着メッセージは届いていなかった。やっぱり、ナツさんからのメッセージは星井にしか送られていなかったようだ。
(まあ、いいけど……)
絶対、俺に連絡をよこさなければいけないわけではないし。トーク画面を閉じたところで、ふと朝の星井の言葉が脳裏によみがえった。
──「そういえば星井って、お兄ちゃんのことが好きだったもんね」
数時間経ってもなお、あの言葉は俺の心に引っかかりつづけている。
だって、俺はもうずっと夏樹さん一筋だ。夏樹さんが初恋で、彼を好きになって以来、他の誰かに心を奪われたことなんて一度たりともない。そのことは星井もよく知っているはずで、なんなら俺の片想いに巻き込まれた被害者のようなポジションだったはずなんだけど、そんな彼女がなぜあんな呟きを洩らしたのか。
「解せない」
小さくこぼして、俺は目の前のブレンドコーヒーをちびりとすすった。ちなみに、俺はコーヒーが特に好きなわけではない。ただ、今日はナツさんにパンケーキをおごらなければいけないので、渋々一番安い飲み物を頼んだだけだ。
口内にじわりと苦味が広がったところで、俺は再びスマホをタップした。
久しぶりに開いたのは、クラウド内の禁断のフォルダ──俺の「夏樹さんコレクション」だ。
この1年ちょっと、俺は夏樹さんの写真を細々と集めてきた。とはいえ、堂々と公表できるのは、3人でテスト勉強をしたとき、星井が「お兄ちゃん、青野、こっち向いて」と声をかけた上で撮ってくれた2ショット写真1枚のみで、残りは隠し撮りだったり、星井がこっそり送ってくれたものだったり、八尾さんのSNSにアップされた写真をスクショしたものだったり──つまり褒められたものではない。ゆえに「禁断のフォルダ」と呼んでいるというわけだ。
その「禁断のフォルダ」に、俺は久しぶりにアクセスした。あとから思えばうかつすぎる行為だったけれど、このときの俺は無性に夏樹さんに会いたくて仕方がなかったんだ。
まずは、自宅でクッションを抱えている横顔が表示された。こんなレアなものは、もちろん身内である星井しか撮ることができない。メッセージアプリで送られてきたときは「ふぁっ」とへんな声が出たのも記憶に新しい。
次に表示されたのは、昼休みにこっそり隠し撮りした笑顔の写真。その次は、SNSにアップされて俺の胸をちりりと焦がした八尾さんとの2ショット。
さらに、ボヤけた後ろ姿、笑顔、また笑顔、真剣そうな横顔と、様々な夏樹さんがディスプレイにあらわれた。
ああ、好きだ。たまらなく好きだ。どうしようもなく好きだ。この人以外に恋をする俺なんて、想像できるはずがない。
禁断の写真を1枚ずつ眺めながら、俺はほうと息を吐いた。こんなふうに、甘く心を痺れさせてくれる存在は、やはり夏樹さんだけなのだ。
1枚、また1枚と、脳裏に焼きつけるように写真を見つめる。
と、ある写真のところで指が止まった。
(これ、たしか……)
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