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第4話

9・一晩明けて…

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 翌朝、少し早めに登校した俺は、逸るような気持ちで星井が来るのを待った。
 もちろん、ナツさんの説得がどうなったのかを聞くためだ。ちなみにメッセージアプリにもメッセージを送っていたが、がっつり既読スルーされていた。そのことが、よけいに俺の不安をあおっていた。
 果たして、遅刻ギリギリの時間に星井は教室に駆け込んできた。

「おはよう! ナツさん、どうだった!?」

 若干食い気味に訊ねると「あんたねぇ」と露骨に嫌な顔をされた。

「挨拶の次に訊くのがそれ!?」
「もちろん」
「はームカつく。なんなの、そのドヤ顔」
「べつに、そんなつもりは……」
「あとさぁ、メッセージ怖すぎ。なんで同じ内容を何件も送ってくるわけ?」
「それは、そっちが既読スルーするからで……」
「だからって10件も送ってこないでよ。ほんと怖すぎだから!」

 そんなことを言われても──ていうか、俺、そんなに送っていたか? いくら腹を立てているからって、さすがに盛りすぎじゃないのか?
 釈然としなかったのでメッセージアプリを開いてみたら、たしかに11件送っていた。おかしいな、せいぜい5件くらいのつもりだったのに。

「で、結果は?」

 あのあと、ナツさんはどうなったんだ?

「帰宅したのは0時過ぎ。たぶん終電帰り。めちゃくちゃご機嫌だった。『お肌ツルツル』的な?」

 なるほど、なかなか生々しい。
 俺は、敢えて深く追求しないことに決めた。詳しく聞けば、間違いなく苛立ちが募る。ナツさんのことで、これ以上不愉快な思いをしたくはない。

「それで? 説得は?」
「したよ。けど失敗した」
「というと?」
「サヤ先輩に彼氏がいることは知らなかったみたい。けど『バレなければ大丈夫じゃーん』だって」

 背筋がぞわりとした。
 なんて、のんきな……それでバレたらどうするつもりなのだ。ただでさえ、うっかりしたところが多々ある人なのに。

「ちなみに、彼氏が暴力をふるうヤツだってことは……」
「もちろん言ったよ。でも『オレ、逃げるの得意だから平気』って」

 バカか。バカなのか。
 そんなに簡単に逃げられるくらいなら、メドゥーサ女は「不幸を呼ぶ女」などと呼ばれていない。

(絶対、見つかってボコボコにされるパターンだ)

 もちろん、そんなのは自業自得なわけだけど、ナツさんの身体は本来夏樹さんのものだ。大切な人の身体が、ナツさんの浮気のせいで傷つくのは耐えられない。

「わかった、俺が説得する」
「えっ、本気?」
「本気だよ、夏樹さんのためなんだから」

 きっぱり言い放った俺に、星井はなぜか「ああ……なるほど」と言葉を濁した。その様子がやけに引っかかったから、俺は「なに?」と低く訊ねた。

「俺、おかしなこと言ってる?」
「そうじゃないけど……ちょっと驚いたっていうか。そういえば星井って、お兄ちゃんのことが好きだったもんね」

 ──え、今更? なんでそんな当たり前のことを?

「俺、あの人を好きになってから浮気したことないけど」
「ああ、うん、そうだよね。わかってる、わかってるってば」

 口でそう言うわりに、星井からは納得している様子がうかがえない。けれども、それを指摘しようとしたところで、担任が教室に入ってきた。
 朝のSHRがはじまり、俺の心にはわだかまりみたいなものだけが残った。
 一体、なぜ星井は俺の気持ちを疑うような発言をしたんだろう。
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