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第4話
8・不幸を呼ぶ女
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その後、ナツさんは「サヤ先輩」とやらとカラオケ店へ消えていき、俺たちは向かいのラッキーバーガーで時間をつぶすことにした。ちなみに、高校生のカラオケ店利用は夜の10時まで。ナツさんが年齢詐称でもしない限り、2時間もしないで店を出てくるはずだ。
「なあ、さっきのアレは何?」
「アレって?」
「『不幸を呼ぶ女』とか言ってたやつ」
フライドポテトをつまみながら訊ねると、星井は「ああ」とため息をついた。
「本当に聞いたことないの? サヤ先輩の噂」
「だから、ないって」
そもそも「サヤ先輩」とやらの存在も今日初めて知ったくらいだ。基本的に、俺は上級生に関しては夏樹さん及びその周辺の人たち以外興味がないのだ。
「サヤ先輩はさぁ、なんていうか……とにかくいろんな男子に手を出すことで有名だったんだよねぇ」
「いろんなって……具体的には?」
「私が知ってるだけでも同級生5人・下級生3人。そのうち『彼女有り』だったのは4人」
うわ、他人の恋人に手を出したってわけか。
「でも、実際はもっといるはずだし、噂によると教育実習生と付き合ってたこともあるみたい」
「……なるほど」
たしかにヤバそうではある。
とはいえ、その程度のことで「不幸を呼ぶ」というのは、いささか大げさすぎやしないか? たしかに、浮気された側からすれば、あのメドゥーサ女子は「不幸を呼ぶ女」かもしれないけれど、全員が彼女持ちではなかったんだよな?
そんな俺の指摘を、星井は「まあ、聞きなって」と軽くいなした。
「まずさ、サヤ先輩って『彼氏』がいるんだよ」
「……えっ?」
「彼氏がいて、その上であちこち食い散らかしてるわけ」
それは──ナツさんと同類ということだろうか。
あの人も、元の世界の俺と付き合っていながら、俺やサカマッキーに手を出そうとしたり、メドゥーサ女子とキスしたりしているわけで……
「でさ、その彼氏がめちゃくちゃゴツくて短気で、すぐに拳に訴えるタイプらしいんだよねー」
──なるほど、だんだん読めてきた。
「つまり『サヤ先輩』の毒牙にかかると、もれなく凶暴な彼氏が出てきてボコボコにされる──と」
それなら「不幸を呼ぶ女」と呼ばれるのも納得できる。まあ、凶暴な彼氏がいる女子と関係をもった時点で、自業自得な気もするけれど……
(いや、知らない可能性もあるのか)
メドゥーサ女子に交際相手がいるとは知らずに、手を出されたとしたら? たしかに「不幸を呼ぶ女」と言いたくもなるかもしれない。
「でさ、どう思う?」
渋い顔つきのまま、星井はカラオケ店に目を向けた。
「なっちゃんさ、サヤ先輩に彼氏がいるの、知ってると思う?」
「微妙なところだな」
ナツさんがこっちの世界に来てから、まだ1ヶ月と少し。なおかつ、メドゥーサ女子はすでに高校を卒業しているわけで、噂が耳に入る可能性は極めて低そうだ。
とはいえ、彼氏がいると知っていても気にせず手を出しかねないのが、ナツさんのやっかいなところ。
自分の欲望に忠実というか、貞操観念がゆるゆるというか。だから、俺にもちょっかいを出そうとするわけで──
「青野、顔」
星井に、なぜかデコピンをくらった。
「痛っ……なに!?」
「シワ。すごかったよ、今」
星井は眉間を指さしたけれど、なんだか釈然としない。いきなりのデコピンはあんまりだし、そもそも俺には眉間にシワを刻む理由がないはずだ。
「とりあえずさ、家に帰ったらなっちゃんに確認してみるよ」
「彼氏のこと知ってるのかって?」
「うん」
「『知ってる』って言われたら?」
「まあ、説得するしかないよね。『やめておきなよ』って」
それからSサイズのポテトとSサイズのドリンクで3時間粘って、俺たちはラッキーバーガーを後にした。
結局、ナツさんは夜の10時を過ぎてもカラオケ店から出てこなかった。
「なあ、さっきのアレは何?」
「アレって?」
「『不幸を呼ぶ女』とか言ってたやつ」
フライドポテトをつまみながら訊ねると、星井は「ああ」とため息をついた。
「本当に聞いたことないの? サヤ先輩の噂」
「だから、ないって」
そもそも「サヤ先輩」とやらの存在も今日初めて知ったくらいだ。基本的に、俺は上級生に関しては夏樹さん及びその周辺の人たち以外興味がないのだ。
「サヤ先輩はさぁ、なんていうか……とにかくいろんな男子に手を出すことで有名だったんだよねぇ」
「いろんなって……具体的には?」
「私が知ってるだけでも同級生5人・下級生3人。そのうち『彼女有り』だったのは4人」
うわ、他人の恋人に手を出したってわけか。
「でも、実際はもっといるはずだし、噂によると教育実習生と付き合ってたこともあるみたい」
「……なるほど」
たしかにヤバそうではある。
とはいえ、その程度のことで「不幸を呼ぶ」というのは、いささか大げさすぎやしないか? たしかに、浮気された側からすれば、あのメドゥーサ女子は「不幸を呼ぶ女」かもしれないけれど、全員が彼女持ちではなかったんだよな?
そんな俺の指摘を、星井は「まあ、聞きなって」と軽くいなした。
「まずさ、サヤ先輩って『彼氏』がいるんだよ」
「……えっ?」
「彼氏がいて、その上であちこち食い散らかしてるわけ」
それは──ナツさんと同類ということだろうか。
あの人も、元の世界の俺と付き合っていながら、俺やサカマッキーに手を出そうとしたり、メドゥーサ女子とキスしたりしているわけで……
「でさ、その彼氏がめちゃくちゃゴツくて短気で、すぐに拳に訴えるタイプらしいんだよねー」
──なるほど、だんだん読めてきた。
「つまり『サヤ先輩』の毒牙にかかると、もれなく凶暴な彼氏が出てきてボコボコにされる──と」
それなら「不幸を呼ぶ女」と呼ばれるのも納得できる。まあ、凶暴な彼氏がいる女子と関係をもった時点で、自業自得な気もするけれど……
(いや、知らない可能性もあるのか)
メドゥーサ女子に交際相手がいるとは知らずに、手を出されたとしたら? たしかに「不幸を呼ぶ女」と言いたくもなるかもしれない。
「でさ、どう思う?」
渋い顔つきのまま、星井はカラオケ店に目を向けた。
「なっちゃんさ、サヤ先輩に彼氏がいるの、知ってると思う?」
「微妙なところだな」
ナツさんがこっちの世界に来てから、まだ1ヶ月と少し。なおかつ、メドゥーサ女子はすでに高校を卒業しているわけで、噂が耳に入る可能性は極めて低そうだ。
とはいえ、彼氏がいると知っていても気にせず手を出しかねないのが、ナツさんのやっかいなところ。
自分の欲望に忠実というか、貞操観念がゆるゆるというか。だから、俺にもちょっかいを出そうとするわけで──
「青野、顔」
星井に、なぜかデコピンをくらった。
「痛っ……なに!?」
「シワ。すごかったよ、今」
星井は眉間を指さしたけれど、なんだか釈然としない。いきなりのデコピンはあんまりだし、そもそも俺には眉間にシワを刻む理由がないはずだ。
「とりあえずさ、家に帰ったらなっちゃんに確認してみるよ」
「彼氏のこと知ってるのかって?」
「うん」
「『知ってる』って言われたら?」
「まあ、説得するしかないよね。『やめておきなよ』って」
それからSサイズのポテトとSサイズのドリンクで3時間粘って、俺たちはラッキーバーガーを後にした。
結局、ナツさんは夜の10時を過ぎてもカラオケ店から出てこなかった。
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