目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件

水野七緒

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第3話

17・瞑想(その1)

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 案の定、西階段はほぼひとがなく、空気もどこかひんやりとしている。
 最上階の行き止まりのところで腰をおろした俺は、軽く息をととのえ、大きく息を吸い込んだ。
 まずは、ゆっくりと鼻から。そうして取り込んだ空気でしっかりと腹をふくらませ、今度は口からゆっくりと息を吐きだす。深呼吸の基本。これが瞑想めいそう前には重要だ。

(──よし)

 この「よろしくない熱」をおさめるには、頭のなかを空っぽにするのが一番だ。
 目を閉じ、規則正しい呼吸を意識しながら、俺は様々な邪念じゃねんを追い払いはじめた。
 ナツさんの甘えるような仕草、とがらせた唇、脇腹に触れたときに跳ねた背中──全部ぜんぶ。

(いいぞ、この調子……)

 ところが、もともと邪念に支配されがちな俺の脳みそは、ナツさんのあれこれが消えたとたん、夏樹さんの存在をチラつかせはじめる。

(そういえば、ふたりで瞑想したっけ)

 アルバイト先のイベントに出場することが決まり「プレッシャーで押しつぶされそう」と言う夏樹さんに「瞑想」を提案したあの日。

(可愛かったな、あのときの夏樹さん)

 ピクピク動く白いまぶた、上下する薄い胸、なかでも細く息を吐き出すときの唇は、半開きでそこはかとなくエロくて──

(いやいや)

 ダメだ、このままだとまたもやよからぬ熱が復活してしまう。
 すみません、夏樹さん。瞑想中は、あなたのことも頭から追い払わないといけないんです。あなたの存在のすべてが俺には大事だけど、今この時間だけは封印させてください。

(そう……集中、集中して……)

 意識を自分の息づかいに向けることで、頭のなかの空白が徐々に広がっていく。
 よし、いいぞ。このぶんなら、問題なく平常心を取り戻せるはず──

(え……っ)

 それは、あまりにも突然だった。弾力のある湿っぽい「何か」が、いきなり俺の鼻先を撫でたのだ。
 当然、集中力は途切れ、俺は驚きのあまり目を開けてしまった。そこで真っ先に視界に入ってきたのは、見覚えのある誰かさんの顔だ。

「あれ、寝てなかったんだ?」

 にやりと笑った唇から、あっけらかんとした言葉が飛び出した。もちろん、そう言い放ったのは、教室に置いてきたはずの諸悪しょあく根源こんげんだった。
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このシリーズの前のお話です。よろしければ…
「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」


こちらはBL未満のお話です
「モフモフ野郎と俺の朝ごはん」
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