目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件

水野七緒

文字の大きさ
上 下
50 / 124
第3話

15・不本意な状況(その3)

しおりを挟む
 多分な好奇心とほんのりとした悪意に、俺の喉奥がグッと締まった。
 なんだ、今のは。噂されるのは仕方のないことだとして、それをわざわざ当人たちに聞こえるように言う必要があるのか?
 モヤる俺の隣で、ナツさんはまたもや声をあげて笑いだした。

「ヤバイ、2年にまで噂されてる!」
「されてますよ、当然でしょう」
「ってことは、オレも青野も有名人?」
「でしょうね。動物園のシマウマ並みには」

 何とはなしにこぼした愚痴に、ナツさんは「ウケる!」とさらに破顔した。

「なんでシマウマ? そこはふつうパンダじゃね?」
「パンダは言い過ぎでしょう。そこまで図々しくはなれません」

 とはいえ、今のこの状況がキツいことに変わりはない。たとえシマウマレベルだったとしても、常に誰かしらの視線を感じるのはものすごいストレスだ。
 いい加減、勘弁してほしい。頼むから、誰もいないところでゆっくり昼休みを過ごさせてくれ。
 なのに、ナツさんはあいかわらず空気を読もうとしない。

「いいじゃん、あんなの放っておけって」
「ですが──」
「噂なんて、どうせすぐに消えるし。由芽ちゃんもそのうち心変わりするに決まってるって!」

 やけに楽観的なナツさんを、俺は恨みがましい思いで見つめた。

「心変わりしなかったらどうするんです?」
「いいじゃん、『モテ期継続』で。それはそれで楽しいんじゃね?」
「そんなわけないでしょう」

 そもそも、この「モテ期」は偽物だ。
 星井の本命は別にいるし、ナツさんが俺にちょっかいを出すのは、単に「『青野行春』が、自分に恋をしていないのは納得がいかない」というだけ。
 つまり、本当に俺のことを好きなのは、あの迷惑なストーカー女子だけなのだ。
 なのに、なぜ好奇の目にさらされなければいけないのか。こんなにも、嘘の「モテ期」に翻弄されなければいけないのか。
 理不尽すぎて、まるで納得がいかない。
 そんな思いが顔に出たのか、今度は「どんまい」とナツさんに背中をさすられた。

(他人事だと思って……)

 思えば、俺の日常がおかしくなったのは、ナツさんがこの世界に来てからだ。
 この人と夏樹さんが入れ替わって以降、俺の日常はトラブル続きになったのだ。

(こうなったら、意地でも記憶を取り戻させてやる)

 そうして、この人を元の世界に送り返すのと引き換えに、誰よりもたいせつな「あの人」を取り戻すのだ。


 ところが、決意を新たにしたその十数日後──思いがけない出来事が、俺たちを待ち受けていたのである。
しおりを挟む
このシリーズの前のお話です。よろしければ…
「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」


こちらはBL未満のお話です
「モフモフ野郎と俺の朝ごはん」
感想 1

あなたにおすすめの小説

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

俺の愉しい学園生活

yumemidori
BL
ある学園の出来事を腐男子くん目線で覗いてみませんか?? #人間メーカー仮 使用しています

王道学園にブラコンが乗り込んでいくぅ!

玉兎
BL
弟と同じ学校になるべく王道学園に編入した男の子のお話。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

[BL]デキソコナイ

明日葉 ゆゐ
BL
特別進学クラスの優等生の喫煙現場に遭遇してしまった校内一の問題児。見ていない振りをして立ち去ろうとするが、なぜか優等生に怪我を負わされ、手当てのために家に連れて行かれることに。決して交わることのなかった2人の不思議な関係が始まる。(別サイトに投稿していた作品になります)

親衛隊は、推しから『選ばれる』までは推しに自分の気持ちを伝えてはいけないルール

雨宮里玖
BL
エリート高校の親衛隊プラスα×平凡無自覚総受け 《あらすじ》 4月。平凡な吉良は、楯山に告白している川上の姿を偶然目撃してしまった。遠目だが二人はイイ感じに見えて告白は成功したようだった。 そのことで、吉良は二年間ずっと学生寮の同室者だった楯山に自分が特別な感情を抱いていたのではないかと思い——。 平凡無自覚な受けの総愛され全寮制学園ライフの物語。

なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが

なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です 酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります 攻 井之上 勇気 まだまだ若手のサラリーマン 元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい でも翌朝には完全に記憶がない 受 牧野・ハロルド・エリス 天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司 金髪ロング、勇気より背が高い 勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん ユウキにオヨメサンにしてもらいたい 同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

処理中です...