目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件

水野七緒

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第3話

14・不本意な状況(その2)

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「……どうも」

 俺は、身構えるように後ずさった。
 だって、この人と顔を合わせるのは、昨日「バーカ!」と罵倒されて以来なのだ。次はどんな暴言が待っているのか、警戒するのも当然だろう。
 ところが、当のナツさんはケロリとしたものだ。

「昨日はごめんなー。脇腹、大丈夫だったか?」
「……大丈夫じゃなかったですけど、大丈夫ですね」

 慎重にそう返すと、ナツさんは「その言い方、あっちの青野っぽい!」とケラケラ笑いだした。
 最悪だ。このタイミングでその名前を出すか。ただでさえ下がり気味だったテンションが、さらにグッと落ちていく。

「用件はそれだけですか? だったら、そこを退いてください」
「なんだよ、冷たすぎー! 青野が心配だからわざわざ会いに来てやったのに」

 もっともらしい言い訳とともに、ナツさんは俺の脇腹に手をのばしてきた。

「ちょっ……なにするんですか!」
「まあまあ、ほんとに大丈夫なのかチェックするだけだって」
「やめてください! そんなの必要ないです!」

 押しのけようとする俺をうまいこと避けて、ナツさんは俺の脇腹に触れてきた。

「……っ」

 危うく、へんな声が出そうになった。ついでに、ぶわっと全身からおかしな汗が噴き出した。
 なんだこの人。
 触り方、いやらしすぎないか?
 警戒する俺に、もうひとりの俺が「それは考えすぎだろう」と否定してくる。
 いやいや、そんなことないって。
 そうか? 自意識過剰すぎるだろ。
 でも、この手つきはヤバイって。
 そんなふうに考えるお前がヤバイって。
 肯定と否定が繰り返される脳内会議。現状は「お前の勘違いだ」と主張する否定派のほうがやや優勢のようだ。
 故に、俺の意見もそちらに傾きかけた。
 そうか、さすがに「いやらしい」というのは俺の考えすぎ──

「やっぱ、感じた?」
「……っ」
「ハハッ、青野ってばびんかーん」

 かくして、否定派は粉砕ふんさいされた。
 俺は、遠慮なくナツさんの手を振り払った。

「そんなんじゃありません、単にくすぐったいだけです!」
「その『くすぐったさ』の先にあるのが『快楽』なんだって」

 なおも懲りずに、ナツさんは俺の脇腹に触ろうとする。
 そのとき、すぐ脇を通り抜けていった女子生徒たちの声が聞こえてきた。

「あの人じゃない? ほら」
「ああ、例の『セフレ』の人?」
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このシリーズの前のお話です。よろしければ…
「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」


こちらはBL未満のお話です
「モフモフ野郎と俺の朝ごはん」
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