目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件

水野七緒

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第3話

13・不本意な状況(その1)

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 翌日、いつになく重い足取りで、俺は学校に向かっていた。
 頭のなかの大部分を占めていたのは、昨日の去り際のストーカー女子の一言だ。「教室に会いにいく」と叫んでいたけど、そんなの困る。絶対にやめてほしい。

(帰りたい)

 想像しただけで、すでに胃が重たい。
 それでも何とか頑張って登校した俺を待ち受けていたのは、ストーカー女子ではなく、クラスメイトたちからの好奇の眼差しだった。

「聞いたぞ、青野! お前、また告白されたんだって?」

 前の席のヤツの一言を皮切りに、他の連中までもが「待ってました」とばかりに俺の席に押し寄せてくる。

「すげぇな、お前! マジでモテ期じゃん!」
「星井の兄ちゃんのカノジョを寝取ったんだって?」
「いや、星井の兄ちゃんとその女子と、どっちがセフレになれるのか争ってんだろ?」
「つーか告ってきたの、3年の江頭さんってマジ?」
「星井と星井の兄ちゃんと江頭さんで四角関係じゃん!」

 頼む、やめてくれ。
 間違った噂で、これ以上俺を追いつめないでくれ。

「にしても、星井も大変だよなぁ。ライバル多過ぎじゃん」

 野次馬のひとりが、ニヤニヤしながら星井ナナセに水を向ける。
 頼む星井、ここは交際相手らしく「そんなことないよー」とか「それ、誤解だから」って否定してくれ。
 祈るような俺の思いは、星井の「アハハ、マジでそれ!」というあっけらかんとした笑い声に打ち砕かれてしまった。

「ほんとやばいよねぇ。私、ライバル増えすぎじゃん?」
「そのわりに、星井は余裕っぽいよなー」
「そりゃ、これでも『正妻』ですから?」

 星井が澄ました顔を見せたところで、担任が教室に入ってきた。皆バラバラと自席に戻り、いつもの朝のSHRがはじまった。

「星井、面白がってるだろ」

 俺は、小声で彼女に抗議した。

「頼むからこういうときは否定してほしい。四角関係じゃないことくらい、星井が一番よく知ってるだろ」
「そりゃ知ってるけど、肯定したほうが面白そうじゃん」

 いや、面白がられても。
 ナツさんじゃあるまいし。

「ていうか、あとで詳しいこと聞かせてよ。めちゃくちゃ興味あるんだけど」
「……どこまで聞いてる?」
「なっちゃんと江頭さんが、青野をめぐって、本屋で『泥棒猫』ってののしりあっていた──ってとこまで」

 勘弁してくれ、どこの昼ドラだ。

「それ、間違ってる」
「へぇ、どのあたりが?」
「おおよそ、すべて。場所以外ぜんぶ」
「うわ、マジで?」

 星井がうっかり声のボリュームをあげたせいで「そこ、静かに」と担任に睨まれた。仕方なく、俺たちは会話を中断させた。これで、詳細の説明については休み時間までお預けだ。
 担任からの連絡事項に耳を傾けながら、俺はこれから起こりえる様々な状況をシミュレーションしてみた。
 どれも憂鬱なものばかりだったが、その中でも一番避けたいのは「ストーカー女子が教室に押しかけてくる」というものだ。
 なにせ彼女は思い込みが激しい。故に、意思のつうがはかれない。
 そんな相手が、この教室に押しかけてきたら? 当然、地獄のような展開が繰り広げられるはずだ。
 唯一、救いなのはストーカー女子と学年が違うこと。そのため、彼女が来襲らいしゅうするとしたら昼休みか放課後である可能性が高い。

(それらを避けるには?)

 昼休みは教室以外の場所に身を隠し、放課後はさっさと下校するしかない。
 では、隠れる場所は?
 パッと思いついたのは、実験室エリアの西階段だ。あそこなら問題ない。特に最上階の行き止まりのところは、身を潜めるにはぴったりのはずだ。
 そんなわけで、昼休みがはじまるなり、俺は弁当箱を手に教室を飛び出した。
 ストーカー女子はもちろんのこと、今は他の連中からの視線も避けたかった。なにせ、休み時間になるたびに、誰かしらが教室を覗きにくるのだ。おかげで、俺のストレス値は、すでにMAXを振り切っている。
 なのに、急ぐ俺の前に両手を広げて立ちふさがった人物がいた。

「あーおの!」

 説明するまでもない──諸悪しょあく根源こんげん・ナツさんだ。
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