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第3話
10・ストーカーとストーカー(その3)
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勢いがついた回し蹴りは、見事俺の脇腹にヒットした。
女子のものとは思えない重量感に、ぐえっと間抜けな声が出る。まるで腹から押し出された空気が、そのまま音になってしまったかのようだ。
「青野!?」
ナツさんが、慌てたようにしゃがみこむ。
「なんで!? なんで青野が蹴られてんの!?」
「そ、んなの……どうだっていい、です」
やばい、腹が痛すぎて、喋るのがけっこうキツい。
それでも、この人に言ってやりたいことがある。いや、正確には「言わなければいけないこと」がある。
「さっきの、あれは何ですか」
「……へっ」
「あんな、自分で自分を貶めるようなこと、どうして平気で言えるんですか」
ナツさんが、彼女に言い放ったことのすべてを「彼の本音ではない」などと否定するつもりはない。
ただ、俺にはあれが心からの発言とは思えなかった。どこか無理をしているような、あるいはわざと自分の傷口を掻きむしるような「自傷行為」のように感じたのだ。
(あれはダメだ)
あんなこと、していいはずがない。
俺は、まだシワが残っているナツさんの左袖に手をのばした。
「お願いです、ナツさん……もうあんなことは言わないで」
「……」
「自分で自分を傷つけたらダメです。もっと、自分を大事に──」
「うるさい!」
鋭い声とともに、パンッと手を払われた。
「なにそれ、意味わかんない! バーカバーカ、青野のバーカ!」
ナツさんは、小学生のような罵倒を俺に浴びせると、すぐさま立ち上がり、あっという間に走り去ってしまった。
まさに「脱兎のごとく」──あのすばしっこそうな八尾さんですら、未だぽかんと口をあけたままだ。
やがて、金髪女子が「くそっ」と舌打ちした。
「悪い、あんたに蹴りを入れるつもりはなかった」
「それは理解しています。勝手に割り込んだのはこちらですし。ただ、相手が誰であっても暴力をふるうのはどうかと思います」
「……そうだよな」
もう一度「悪かった」と深く頭を下げられる。
いや、もういいです、と伝えようとしたそのとき、彼女の後ろにいたストーカー女子と目が合った。
背筋が、ぞわりとした。どういうわけか、彼女はうっとりとした目で俺を見つめていた。
「ねえ、あなた、もしかして……」
まずい、それ以上は聞きたくない。
「あなた、ほんとは由芽のストーカーでしょ!? そうなんでしょ!?」
女子のものとは思えない重量感に、ぐえっと間抜けな声が出る。まるで腹から押し出された空気が、そのまま音になってしまったかのようだ。
「青野!?」
ナツさんが、慌てたようにしゃがみこむ。
「なんで!? なんで青野が蹴られてんの!?」
「そ、んなの……どうだっていい、です」
やばい、腹が痛すぎて、喋るのがけっこうキツい。
それでも、この人に言ってやりたいことがある。いや、正確には「言わなければいけないこと」がある。
「さっきの、あれは何ですか」
「……へっ」
「あんな、自分で自分を貶めるようなこと、どうして平気で言えるんですか」
ナツさんが、彼女に言い放ったことのすべてを「彼の本音ではない」などと否定するつもりはない。
ただ、俺にはあれが心からの発言とは思えなかった。どこか無理をしているような、あるいはわざと自分の傷口を掻きむしるような「自傷行為」のように感じたのだ。
(あれはダメだ)
あんなこと、していいはずがない。
俺は、まだシワが残っているナツさんの左袖に手をのばした。
「お願いです、ナツさん……もうあんなことは言わないで」
「……」
「自分で自分を傷つけたらダメです。もっと、自分を大事に──」
「うるさい!」
鋭い声とともに、パンッと手を払われた。
「なにそれ、意味わかんない! バーカバーカ、青野のバーカ!」
ナツさんは、小学生のような罵倒を俺に浴びせると、すぐさま立ち上がり、あっという間に走り去ってしまった。
まさに「脱兎のごとく」──あのすばしっこそうな八尾さんですら、未だぽかんと口をあけたままだ。
やがて、金髪女子が「くそっ」と舌打ちした。
「悪い、あんたに蹴りを入れるつもりはなかった」
「それは理解しています。勝手に割り込んだのはこちらですし。ただ、相手が誰であっても暴力をふるうのはどうかと思います」
「……そうだよな」
もう一度「悪かった」と深く頭を下げられる。
いや、もういいです、と伝えようとしたそのとき、彼女の後ろにいたストーカー女子と目が合った。
背筋が、ぞわりとした。どういうわけか、彼女はうっとりとした目で俺を見つめていた。
「ねえ、あなた、もしかして……」
まずい、それ以上は聞きたくない。
「あなた、ほんとは由芽のストーカーでしょ!? そうなんでしょ!?」
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