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第3話
9・ストーカーとストーカー(その2)
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ナツさんの爆弾発言には、どうやら時間を止める効果があったらしい。
彼の隣にいた八尾さんも、少し前を歩いていた見知らぬおじさんも、はたきを持っていた店員も、皆ぴたりと動きを止めてナツさんを見つめている。
まるで静止画のような光景。それを破ったのは、まさかの金髪女子だった。
「てめぇ……っ」
ドスのきいた声が響くと同時に、何かが破裂するような音がした。
それが、彼女から繰り出された「蹴り」だと気づいたのは、ナツさんが悲鳴をあげてお尻を押さえたからだ。
「痛っ……怖っ、痛っ」
「うるせぇ! 急所じゃなかったことに感謝しろ!」
たしかに、あの蹴りが股間に炸裂していたら大惨事だ。
とはいえお尻でも十分痛そうだったし、金髪女子はさっきの一撃で終わらせるつもりはないらしい。
さらにナツさんの胸ぐらをつかもうとした彼女を、八尾さんが慌てて羽交い締めにした。
「バカ、落ち着け。まずは外に──」
「うるせぇ、離せ八尾!」
金髪女子は、猛獣のごとく吠えた。
「ダチをバカにされて、おとなしく引っ込んでられるか!」
「それでも落ち着け! ここ店内だぞ!」
自分とほぼ同身長の金髪女子を、八尾さんは力まかせに店外に引きずり出した。そのあとを俺とストーカー女子が追いかけ、最後にナツさんがお尻をさすりながら、店から出てきた。
「──おい、星井」
「ひゃっ、はいっ!」
「さっき、由芽に言った『アレ』はなんだ?」
「な、なにって……」
「とぼけんなよ、セフレの件だ」
外気に当たって少しは冷静になったかに見えた金髪女子だけど、その目にはまだまだ剣呑な色がにじんでいる。
ナツさんは、またもや八尾さんの背後に隠れようとした。けれども、今度は八尾さんがそれを許さなかった。
「答えろ、ナツ」
逆に前に押しやられて、ナツさんは「だってぇ」と眉を下げた。
「オレ、この子のこと好きじゃないし」
「そんなことない! ほっしー嘘つかないで!」
「ついてない! この子、なんか怖いし!」
「じゃあ、なんで『セフレ』って言った?」
金髪女子は、威圧するようにナツさんを睨みあげた。
「てめぇは女なら誰でもいいのかよ」
「べつに女の子限定じゃ……オレ、男でもいいし……」
「そういう話をしてんじゃねぇ!」
「ひゃっ」
「なんで好きでもない女に『セフレならいい』って言ったのか、答えろって話だろうが!」
「そ、それは……」
ナツさんは、お尻をかばいながら後ずさった。
「できなくはない……から?」
「はぁっ!?」
「オレ、すごいヘンタイ以外とはやれるし、そういうの慣れてるし、平気だし、そのほうが気楽だし、疲れないし──そもそもオレ、こういうやつだし!」
だからさ、とナツさんは薄っぺらく笑った。
「セフレならいいかなーって……それなら、この子とも付き合えるかなーって」
ひどい発言だ。さすがにあんまりだ。
八尾さんは呆れを通り越して無表情になっているし、金髪女子はさらなる怒りでずっと震えている。
当然だ。ふたりの反応はいたってまともだ。俺だって、ナツさんを擁護するつもりはない。
なのに、気づいてしまった。
ナツさんの右手が、さっきから強く、それこそ変なしわができるくらいの力で制服の左袖をつかんでいることに。
だから、だろうか。
「てめぇ……歯、食いしばれ!」
金髪女子が、再び右足を振りあげたとたん、俺の身体は勝手に動いてしまった。
彼女とナツさんの間へ、自分の身体を割り込ませるようにして。
彼の隣にいた八尾さんも、少し前を歩いていた見知らぬおじさんも、はたきを持っていた店員も、皆ぴたりと動きを止めてナツさんを見つめている。
まるで静止画のような光景。それを破ったのは、まさかの金髪女子だった。
「てめぇ……っ」
ドスのきいた声が響くと同時に、何かが破裂するような音がした。
それが、彼女から繰り出された「蹴り」だと気づいたのは、ナツさんが悲鳴をあげてお尻を押さえたからだ。
「痛っ……怖っ、痛っ」
「うるせぇ! 急所じゃなかったことに感謝しろ!」
たしかに、あの蹴りが股間に炸裂していたら大惨事だ。
とはいえお尻でも十分痛そうだったし、金髪女子はさっきの一撃で終わらせるつもりはないらしい。
さらにナツさんの胸ぐらをつかもうとした彼女を、八尾さんが慌てて羽交い締めにした。
「バカ、落ち着け。まずは外に──」
「うるせぇ、離せ八尾!」
金髪女子は、猛獣のごとく吠えた。
「ダチをバカにされて、おとなしく引っ込んでられるか!」
「それでも落ち着け! ここ店内だぞ!」
自分とほぼ同身長の金髪女子を、八尾さんは力まかせに店外に引きずり出した。そのあとを俺とストーカー女子が追いかけ、最後にナツさんがお尻をさすりながら、店から出てきた。
「──おい、星井」
「ひゃっ、はいっ!」
「さっき、由芽に言った『アレ』はなんだ?」
「な、なにって……」
「とぼけんなよ、セフレの件だ」
外気に当たって少しは冷静になったかに見えた金髪女子だけど、その目にはまだまだ剣呑な色がにじんでいる。
ナツさんは、またもや八尾さんの背後に隠れようとした。けれども、今度は八尾さんがそれを許さなかった。
「答えろ、ナツ」
逆に前に押しやられて、ナツさんは「だってぇ」と眉を下げた。
「オレ、この子のこと好きじゃないし」
「そんなことない! ほっしー嘘つかないで!」
「ついてない! この子、なんか怖いし!」
「じゃあ、なんで『セフレ』って言った?」
金髪女子は、威圧するようにナツさんを睨みあげた。
「てめぇは女なら誰でもいいのかよ」
「べつに女の子限定じゃ……オレ、男でもいいし……」
「そういう話をしてんじゃねぇ!」
「ひゃっ」
「なんで好きでもない女に『セフレならいい』って言ったのか、答えろって話だろうが!」
「そ、それは……」
ナツさんは、お尻をかばいながら後ずさった。
「できなくはない……から?」
「はぁっ!?」
「オレ、すごいヘンタイ以外とはやれるし、そういうの慣れてるし、平気だし、そのほうが気楽だし、疲れないし──そもそもオレ、こういうやつだし!」
だからさ、とナツさんは薄っぺらく笑った。
「セフレならいいかなーって……それなら、この子とも付き合えるかなーって」
ひどい発言だ。さすがにあんまりだ。
八尾さんは呆れを通り越して無表情になっているし、金髪女子はさらなる怒りでずっと震えている。
当然だ。ふたりの反応はいたってまともだ。俺だって、ナツさんを擁護するつもりはない。
なのに、気づいてしまった。
ナツさんの右手が、さっきから強く、それこそ変なしわができるくらいの力で制服の左袖をつかんでいることに。
だから、だろうか。
「てめぇ……歯、食いしばれ!」
金髪女子が、再び右足を振りあげたとたん、俺の身体は勝手に動いてしまった。
彼女とナツさんの間へ、自分の身体を割り込ませるようにして。
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