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第3話
8・ストーカーとストーカー(その1)
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ストーカー女子こと江頭由芽のその発言に、俺は「はぁっ」と声をあげた。
「ふざけないでください。俺はストーカーではありません」
「でも、あなた、気がつけばいつもほっしーのそばにいるよね? そういうの、『つきまとってる』っていうんじゃないの?」
「誤解です。たまたまナツさんと行き先が被るだけです」
「出た! そういうの、ストーカーの、ええと、ジョ……ジョートー……」
「常套句ですか?」
「そう、それ! ジョートークだって、まこちゃんが言ってた!」
どうだ、とばかりにストーカー女子は胸を張るけれど、それはこの人自身への忠告ではないのか。彼女があまりにもナツさんのまわりをうろうろするから、その「まこちゃん」とやらが釘を刺したんじゃないのか。
その点、俺は理由が違う。
たしかに、この1週間、俺はナツさんの周辺によく出没していたかもしれない。でも、それは「見守るため」だ。いざとなったら、ストーカー女子の魔の手から彼を救い出すためだ。
そうした俺の正当な行為を、ストーカー女子と一緒にされるなんてたまったもんじゃない。
「そもそも、あなたこそどうなんです?」
「えっ」
「あなたこそ、この1週間ずっとナツさんにつきまとっていますよね?」
「違うもん! 由芽は、ただほっしーとおしゃべりしたいだけだもん!」
「本人にその気がないのにつけまわすのはどうかと思いますが」
「そんなことない! ほっしーも、由芽とおしゃべりしたがってるもん!」
ストーカー女子は、ぷっと頬をふくらませた。なんだそれ、かわいいとでも思っているのか? でも、それなら夏樹さんのほうが100倍は上だ。以前あの人がふざけて同じように頬をふくらませたとき、俺がどれだけ衝撃を受けたことか。
思い返してうっとりしかけた俺の耳に「お前ら、なにやってんだ」と呆れたような声が届いた。
八尾さんだ。さすがに、俺たちの言い争いに気づいたらしい。ラーメン屋の店主よろしく、ドンッと腕組みして俺たちふたりを見比べている。
さらに、その後ろからはナツさんが顔をのぞかせていた。中腰なのは、おそらく八尾さんの背中に隠れているつもりだからなのだろう。実際は体格差があるので、ほぼ丸見えだけど。この人のこういうところ、ほんと浅はかだよな。
「ほっしーと同じクラスの八尾くんだよね?」
なぜか、ストーカー女子まで張り合うように腕組みをした。
「由芽、ほっしーとふたりでおしゃべりしたいの。ちょっとあっちに行っててくれる?」
「やだ、行かないで八尾!」
ナツさんは、ギュッと八尾さんの肩にしがみついた。
「オレのことひとりにしないで! オレのこと守って!」
なんだ、この茶番。王子様に助けを求める、お姫さま気取りか?
けれど、八尾さんは王子様になるつもりはないらしい。「うるせぇ、うぜぇ」とナツさんにデコピンをくらわすと、ストーカー女子にガラケーの画面を突きつけた。
「桑野にメールした」
「えっ!?」
「お前のこと、回収しに来るってよ」
八尾さんが言い終わると同時に、書店の入り口のドアが開いた。大股で近づいてきたのは、先日学食にも現れたあの金髪女子だ。
「由芽……あんた、また星井のあとをつけまわして!」
「違うもん! ほっしーのストーカーはこの人だもん!」
彼女の指先が俺に向けられ、ナツさんが「ええっ」と声をあげた。
「青野、オレのストーカーだったの!?」
「断じて違います」
「でも、この人、いつもちょっと離れたところでほっしーのこと見てるもん!」
「じゃあ、やっぱりオレのストーカー……」
「だから違います! オレと彼女、どっちを信じるつもりですか!」
つい声を荒げたところで、俺はハタと我に返った。
だって、周囲の視線があまりにも痛かったから。
そう、すっかり忘れていたけれど、ここは書店だ。他にも買い物客たちがいる「公共の場」だ。
案の定、店員が険しい顔つきでこちらに近づいてきた。これは、もしかしたら出入禁止を言い渡されるパターンかもしれない。
「おい、出るぞ」
八尾さんが、先手を打つようにナツさんの背中を押した。状況を察した金髪女子も、同じようにストーカー女子の腕を引いた。
こうして、第2ラウンドは人目のつかない場所へ──と思いきや、薄茶色の頭がくるりと振り向いた。
「あのさ! セフレならいいよ!」
まさかの、新たな爆弾を投下するために。
「セフレになら、ならせてあげてもいい!」
「ふざけないでください。俺はストーカーではありません」
「でも、あなた、気がつけばいつもほっしーのそばにいるよね? そういうの、『つきまとってる』っていうんじゃないの?」
「誤解です。たまたまナツさんと行き先が被るだけです」
「出た! そういうの、ストーカーの、ええと、ジョ……ジョートー……」
「常套句ですか?」
「そう、それ! ジョートークだって、まこちゃんが言ってた!」
どうだ、とばかりにストーカー女子は胸を張るけれど、それはこの人自身への忠告ではないのか。彼女があまりにもナツさんのまわりをうろうろするから、その「まこちゃん」とやらが釘を刺したんじゃないのか。
その点、俺は理由が違う。
たしかに、この1週間、俺はナツさんの周辺によく出没していたかもしれない。でも、それは「見守るため」だ。いざとなったら、ストーカー女子の魔の手から彼を救い出すためだ。
そうした俺の正当な行為を、ストーカー女子と一緒にされるなんてたまったもんじゃない。
「そもそも、あなたこそどうなんです?」
「えっ」
「あなたこそ、この1週間ずっとナツさんにつきまとっていますよね?」
「違うもん! 由芽は、ただほっしーとおしゃべりしたいだけだもん!」
「本人にその気がないのにつけまわすのはどうかと思いますが」
「そんなことない! ほっしーも、由芽とおしゃべりしたがってるもん!」
ストーカー女子は、ぷっと頬をふくらませた。なんだそれ、かわいいとでも思っているのか? でも、それなら夏樹さんのほうが100倍は上だ。以前あの人がふざけて同じように頬をふくらませたとき、俺がどれだけ衝撃を受けたことか。
思い返してうっとりしかけた俺の耳に「お前ら、なにやってんだ」と呆れたような声が届いた。
八尾さんだ。さすがに、俺たちの言い争いに気づいたらしい。ラーメン屋の店主よろしく、ドンッと腕組みして俺たちふたりを見比べている。
さらに、その後ろからはナツさんが顔をのぞかせていた。中腰なのは、おそらく八尾さんの背中に隠れているつもりだからなのだろう。実際は体格差があるので、ほぼ丸見えだけど。この人のこういうところ、ほんと浅はかだよな。
「ほっしーと同じクラスの八尾くんだよね?」
なぜか、ストーカー女子まで張り合うように腕組みをした。
「由芽、ほっしーとふたりでおしゃべりしたいの。ちょっとあっちに行っててくれる?」
「やだ、行かないで八尾!」
ナツさんは、ギュッと八尾さんの肩にしがみついた。
「オレのことひとりにしないで! オレのこと守って!」
なんだ、この茶番。王子様に助けを求める、お姫さま気取りか?
けれど、八尾さんは王子様になるつもりはないらしい。「うるせぇ、うぜぇ」とナツさんにデコピンをくらわすと、ストーカー女子にガラケーの画面を突きつけた。
「桑野にメールした」
「えっ!?」
「お前のこと、回収しに来るってよ」
八尾さんが言い終わると同時に、書店の入り口のドアが開いた。大股で近づいてきたのは、先日学食にも現れたあの金髪女子だ。
「由芽……あんた、また星井のあとをつけまわして!」
「違うもん! ほっしーのストーカーはこの人だもん!」
彼女の指先が俺に向けられ、ナツさんが「ええっ」と声をあげた。
「青野、オレのストーカーだったの!?」
「断じて違います」
「でも、この人、いつもちょっと離れたところでほっしーのこと見てるもん!」
「じゃあ、やっぱりオレのストーカー……」
「だから違います! オレと彼女、どっちを信じるつもりですか!」
つい声を荒げたところで、俺はハタと我に返った。
だって、周囲の視線があまりにも痛かったから。
そう、すっかり忘れていたけれど、ここは書店だ。他にも買い物客たちがいる「公共の場」だ。
案の定、店員が険しい顔つきでこちらに近づいてきた。これは、もしかしたら出入禁止を言い渡されるパターンかもしれない。
「おい、出るぞ」
八尾さんが、先手を打つようにナツさんの背中を押した。状況を察した金髪女子も、同じようにストーカー女子の腕を引いた。
こうして、第2ラウンドは人目のつかない場所へ──と思いきや、薄茶色の頭がくるりと振り向いた。
「あのさ! セフレならいいよ!」
まさかの、新たな爆弾を投下するために。
「セフレになら、ならせてあげてもいい!」
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