目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件

水野七緒

文字の大きさ
上 下
43 / 124
第3話

8・ストーカーとストーカー(その1)

しおりを挟む
 ストーカー女子こと江頭由芽のその発言に、俺は「はぁっ」と声をあげた。

「ふざけないでください。俺はストーカーではありません」
「でも、あなた、気がつけばいつもほっしーのそばにいるよね? そういうの、『つきまとってる』っていうんじゃないの?」
「誤解です。たまたまナツさんと行き先が被るだけです」
「出た! そういうの、ストーカーの、ええと、ジョ……ジョートー……」
「常套句ですか?」
「そう、それ! ジョートークだって、まこちゃんが言ってた!」

 どうだ、とばかりにストーカー女子は胸を張るけれど、それはこの人自身への忠告ではないのか。彼女があまりにもナツさんのまわりをうろうろするから、その「まこちゃん」とやらが釘を刺したんじゃないのか。
 その点、俺は理由が違う。
 たしかに、この1週間、俺はナツさんの周辺によく出没していたかもしれない。でも、それは「見守るため」だ。いざとなったら、ストーカー女子の魔の手から彼を救い出すためだ。
 そうした俺の正当な行為を、ストーカー女子と一緒にされるなんてたまったもんじゃない。

「そもそも、あなたこそどうなんです?」
「えっ」
「あなたこそ、この1週間ずっとナツさんにつきまとっていますよね?」
「違うもん! 由芽は、ただほっしーとおしゃべりしたいだけだもん!」
「本人にその気がないのにつけまわすのはどうかと思いますが」
「そんなことない! ほっしーも、由芽とおしゃべりしたがってるもん!」

 ストーカー女子は、ぷっと頬をふくらませた。なんだそれ、かわいいとでも思っているのか? でも、それなら夏樹さんのほうが100倍は上だ。以前あの人がふざけて同じように頬をふくらませたとき、俺がどれだけ衝撃を受けたことか。
 思い返してうっとりしかけた俺の耳に「お前ら、なにやってんだ」と呆れたような声が届いた。
 八尾さんだ。さすがに、俺たちの言い争いに気づいたらしい。ラーメン屋の店主よろしく、ドンッと腕組みして俺たちふたりを見比べている。
 さらに、その後ろからはナツさんが顔をのぞかせていた。中腰なのは、おそらく八尾さんの背中に隠れているつもりだからなのだろう。実際は体格差があるので、ほぼ丸見えだけど。この人のこういうところ、ほんと浅はかだよな。

「ほっしーと同じクラスの八尾くんだよね?」

 なぜか、ストーカー女子まで張り合うように腕組みをした。

「由芽、ほっしーとふたりでおしゃべりしたいの。ちょっとあっちに行っててくれる?」
「やだ、行かないで八尾!」

 ナツさんは、ギュッと八尾さんの肩にしがみついた。

「オレのことひとりにしないで! オレのこと守って!」

 なんだ、この茶番。王子様に助けを求める、お姫さま気取りか? 
 けれど、八尾さんは王子様になるつもりはないらしい。「うるせぇ、うぜぇ」とナツさんにデコピンをくらわすと、ストーカー女子にガラケーの画面を突きつけた。

「桑野にメールした」
「えっ!?」
「お前のこと、回収しに来るってよ」

 八尾さんが言い終わると同時に、書店の入り口のドアが開いた。大股で近づいてきたのは、先日学食にも現れたあの金髪女子だ。

「由芽……あんた、また星井のあとをつけまわして!」
「違うもん! ほっしーのストーカーはこの人だもん!」

 彼女の指先が俺に向けられ、ナツさんが「ええっ」と声をあげた。

「青野、オレのストーカーだったの!?」
「断じて違います」
「でも、この人、いつもちょっと離れたところでほっしーのこと見てるもん!」
「じゃあ、やっぱりオレのストーカー……」
「だから違います! オレと彼女、どっちを信じるつもりですか!」

 つい声を荒げたところで、俺はハタと我に返った。
 だって、周囲の視線があまりにも痛かったから。
 そう、すっかり忘れていたけれど、ここは書店だ。他にも買い物客たちがいる「公共の場」だ。
 案の定、店員が険しい顔つきでこちらに近づいてきた。これは、もしかしたら出入禁止を言い渡されるパターンかもしれない。

「おい、出るぞ」

 八尾さんが、先手を打つようにナツさんの背中を押した。状況を察した金髪女子も、同じようにストーカー女子の腕を引いた。
 こうして、第2ラウンドは人目のつかない場所へ──と思いきや、薄茶色の頭がくるりと振り向いた。

「あのさ! セフレならいいよ!」

 まさかの、新たな爆弾を投下するために。

「セフレになら、ならせてあげてもいい!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

俺の愉しい学園生活

yumemidori
BL
ある学園の出来事を腐男子くん目線で覗いてみませんか?? #人間メーカー仮 使用しています

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

風紀“副”委員長はギリギリモブです

柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。 俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。 そう、“副”だ。あくまでも“副”。 だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに! BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

僕の平凡生活が…

ポコタマ
BL
アンチ転校生によって日常が壊された主人公の話です 更新頻度はとても遅めです。誤字・脱字がある場合がございます。お気に入り、しおり、感想励みになります。

処理中です...