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第3話
3・早く、早く(その2)
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星井の指摘に、頭のなかが真っ白になる。
やめてくれ、そんなのありえない。ていうか考えたくない。向こうの「俺」が夏樹さんと浮気をしているだなんて。
「ダメだ、ぶっ殺す」
「どっちを?」
「そんなの決まってるだろ」
夏樹さんを手籠めにした向こうの世界の「俺」をだ。ナツさんという人がありながら夏樹さんにまで手を出すだなんて、そんなの許されるはずがない。
「まあまあ、落ち着いて。浮気とは限らないでしょ」
「なんでだよ! ナツさんという人がありながら、夏樹さんに手を出したらどう考えても浮気だろう!」
「ふたりが別人だって知ってるならね。知らない可能性もあるじゃん」
……は? どういうこと?
「ほら、なっちゃんは自己主張が強いっていうか……こっちに来てすぐに『この世界はおかしい!』って大騒ぎしたから、私らもなんとなく『この人、別世界から来たんだ』って受け入れたけどさ。お兄ちゃんって順応性が高いから、そういうのを我慢して、周囲に合わせるところがあるじゃん」
「……つまり?」
「別世界のお兄ちゃんは、そっちの世界の『星井夏樹』のふりをしているかもしれないってこと」
彼女の指摘に、背筋がぞわりと粟立った。だって、もし、本当にそうだとしたら、夏樹さんは向こうの世界の「青野行春」と、一時的な浮気相手ではなく本命の「恋人」として付き合っているということになる。
そんなのダメだ、絶対にダメだ。俺じゃない「俺」に大事にされている夏樹さんなんて、想像しただけで吐きそうだ。
思わず顔を覆ったところで、担任の教師が教室に入ってきた。日直の号令になんとかよろめきながら立ちあがったけれど、頭のなかは夏樹さんのことでいっぱいだ。
(早く取り戻さないと)
夏樹さんに、こっちの世界に帰ってきてもらわないと。
俺は、机の下でこっそりスマホを操作した。もちろんネット記事やSNSで情報を集めるためだ。検索バーに、思いつくかぎりのワードを次々と入力していく。たとえば「記憶喪失 解消」「記憶喪失 治った」「記憶 取り戻す」──
けれど、何時間がんばっても求めている情報は得られない。それどころか、3時間目の数学の時間に、ついに先生に見つかって、放課後までスマホを没収されてしまった。
最悪だ。一刻も早く解決方法を手に入れたいのに。
けれども、俺の「最悪」は、ここがピークじゃなかった。もっと最悪な出来事が、このあとの昼休み時間に待ち受けていたのである。
やめてくれ、そんなのありえない。ていうか考えたくない。向こうの「俺」が夏樹さんと浮気をしているだなんて。
「ダメだ、ぶっ殺す」
「どっちを?」
「そんなの決まってるだろ」
夏樹さんを手籠めにした向こうの世界の「俺」をだ。ナツさんという人がありながら夏樹さんにまで手を出すだなんて、そんなの許されるはずがない。
「まあまあ、落ち着いて。浮気とは限らないでしょ」
「なんでだよ! ナツさんという人がありながら、夏樹さんに手を出したらどう考えても浮気だろう!」
「ふたりが別人だって知ってるならね。知らない可能性もあるじゃん」
……は? どういうこと?
「ほら、なっちゃんは自己主張が強いっていうか……こっちに来てすぐに『この世界はおかしい!』って大騒ぎしたから、私らもなんとなく『この人、別世界から来たんだ』って受け入れたけどさ。お兄ちゃんって順応性が高いから、そういうのを我慢して、周囲に合わせるところがあるじゃん」
「……つまり?」
「別世界のお兄ちゃんは、そっちの世界の『星井夏樹』のふりをしているかもしれないってこと」
彼女の指摘に、背筋がぞわりと粟立った。だって、もし、本当にそうだとしたら、夏樹さんは向こうの世界の「青野行春」と、一時的な浮気相手ではなく本命の「恋人」として付き合っているということになる。
そんなのダメだ、絶対にダメだ。俺じゃない「俺」に大事にされている夏樹さんなんて、想像しただけで吐きそうだ。
思わず顔を覆ったところで、担任の教師が教室に入ってきた。日直の号令になんとかよろめきながら立ちあがったけれど、頭のなかは夏樹さんのことでいっぱいだ。
(早く取り戻さないと)
夏樹さんに、こっちの世界に帰ってきてもらわないと。
俺は、机の下でこっそりスマホを操作した。もちろんネット記事やSNSで情報を集めるためだ。検索バーに、思いつくかぎりのワードを次々と入力していく。たとえば「記憶喪失 解消」「記憶喪失 治った」「記憶 取り戻す」──
けれど、何時間がんばっても求めている情報は得られない。それどころか、3時間目の数学の時間に、ついに先生に見つかって、放課後までスマホを没収されてしまった。
最悪だ。一刻も早く解決方法を手に入れたいのに。
けれども、俺の「最悪」は、ここがピークじゃなかった。もっと最悪な出来事が、このあとの昼休み時間に待ち受けていたのである。
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