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第2話
13・小悪魔発動
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「あーおのっ!」
いきなり抱きついてきた、あたたかなかたまり。あるいは、木にしがみつくコアラといったところか。
俺は、少しだけ顔を後ろに傾けた。
──うん、知ってた。ナツさんだ。
でも、なんでこっちのホームに? もしかして、またうちに泊まるつもりとか?
目が合い、ニカッと笑ったナツさんに、俺はひとまず釘を刺すことにした。
「今日は泊めませんよ」
「違うって!」
ナツさんは、心外だとばかりに頬を膨らませた。
「オレ、『泊めて』なんて一言も言ってない!」
「では、なぜこちらのホームに?」
「青野に傘のお礼してなかったから。ハイ、これあげる」
差し出されたのは、緑茶のペットボトル──ただし、自販機で買ったばかりのキンキンに冷えたものだ。
こういうとき、ふつうならホットドリンクを買うものでは?
そうつっこみたかったものの、ナツさんからこんな心遣いをされたのは初めてで、気がつけば「ありがとうございます。嬉しいです」と頭を下げていた。
「ほんと? じゃあ、よかった」
ナツさんは、俺の濡れた短い髪の毛を「よしよし」と撫でた。それこそ、労るような優しい手つきで。
不覚にも、ドキリとした。だって、ナツさんがこんなことをしてくれるとは思ってもみなかったから。
それに、この身体は夏樹さんのもの──そう考えると、実質「夏樹さんに頭を撫でられた」と考えても差し支えないのでは?
「よし! じゃあ、また明日な!」
オマケとばかりに俺の頬をギュッと両手で包み込んで、ナツさんは機嫌良く去っていった。ともすれば悪魔のような人だけれど、今の彼はどちらかというと「小悪魔」って感じだ。
(まあ……悪い人ではないんだよな)
わがままで自分本位だけど、どこか憎めないというか。そんなことを考えながら、上りホームへ向かう彼の背中をそっと見送る。ちなみに、ホームを移動するにはコンコースを通らないといけないので、俺がこうやって見送れるのは、ナツさんが階段を下りていくところまでだ。
「……うん?」
なのに、なぜかナツさんは階段を下りていかない。もしかして、この奥のエレベーターを使うつもりだろうか。でも、あのエレベーターは数日前にトラブルがあって、今は使えなかったはず。
そのまま放っておいても良かったけれど、なんとなく気になった俺は、列から外れてナツさんの後を追いかけた。あとから思えば、このとき、すでに何らかの胸騒ぎを覚えていたのかもしれない。
階段をスルーしたナツさんは、エレベーターよりもだいぶ手前のところで立ち止まった。
で、急行待ちの列に並んでいる男に声をかけた。
相手は驚いたように振り返ったあと、ナツさんに親しげな笑顔を見せた。
(あの人──!)
見覚えがあった。
俺の記憶違いじゃなければ、先日ラッキーバーガーの前でナツさんに声をかけてきた店員──夏樹さんのバイト仲間だった。
いきなり抱きついてきた、あたたかなかたまり。あるいは、木にしがみつくコアラといったところか。
俺は、少しだけ顔を後ろに傾けた。
──うん、知ってた。ナツさんだ。
でも、なんでこっちのホームに? もしかして、またうちに泊まるつもりとか?
目が合い、ニカッと笑ったナツさんに、俺はひとまず釘を刺すことにした。
「今日は泊めませんよ」
「違うって!」
ナツさんは、心外だとばかりに頬を膨らませた。
「オレ、『泊めて』なんて一言も言ってない!」
「では、なぜこちらのホームに?」
「青野に傘のお礼してなかったから。ハイ、これあげる」
差し出されたのは、緑茶のペットボトル──ただし、自販機で買ったばかりのキンキンに冷えたものだ。
こういうとき、ふつうならホットドリンクを買うものでは?
そうつっこみたかったものの、ナツさんからこんな心遣いをされたのは初めてで、気がつけば「ありがとうございます。嬉しいです」と頭を下げていた。
「ほんと? じゃあ、よかった」
ナツさんは、俺の濡れた短い髪の毛を「よしよし」と撫でた。それこそ、労るような優しい手つきで。
不覚にも、ドキリとした。だって、ナツさんがこんなことをしてくれるとは思ってもみなかったから。
それに、この身体は夏樹さんのもの──そう考えると、実質「夏樹さんに頭を撫でられた」と考えても差し支えないのでは?
「よし! じゃあ、また明日な!」
オマケとばかりに俺の頬をギュッと両手で包み込んで、ナツさんは機嫌良く去っていった。ともすれば悪魔のような人だけれど、今の彼はどちらかというと「小悪魔」って感じだ。
(まあ……悪い人ではないんだよな)
わがままで自分本位だけど、どこか憎めないというか。そんなことを考えながら、上りホームへ向かう彼の背中をそっと見送る。ちなみに、ホームを移動するにはコンコースを通らないといけないので、俺がこうやって見送れるのは、ナツさんが階段を下りていくところまでだ。
「……うん?」
なのに、なぜかナツさんは階段を下りていかない。もしかして、この奥のエレベーターを使うつもりだろうか。でも、あのエレベーターは数日前にトラブルがあって、今は使えなかったはず。
そのまま放っておいても良かったけれど、なんとなく気になった俺は、列から外れてナツさんの後を追いかけた。あとから思えば、このとき、すでに何らかの胸騒ぎを覚えていたのかもしれない。
階段をスルーしたナツさんは、エレベーターよりもだいぶ手前のところで立ち止まった。
で、急行待ちの列に並んでいる男に声をかけた。
相手は驚いたように振り返ったあと、ナツさんに親しげな笑顔を見せた。
(あの人──!)
見覚えがあった。
俺の記憶違いじゃなければ、先日ラッキーバーガーの前でナツさんに声をかけてきた店員──夏樹さんのバイト仲間だった。
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