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第2話

4・人たらし(その1)

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「なになに、こんなとこで何してんの? 店に入んないの?」

 「ジェネリック夏樹さん」ことナツさんは、ぴょんぴょんと跳ねるように俺にまとわりついてきた。

「ね、入るならポテトおごって! オレ、お腹すいた!」
「すみません、店には入らないです」
「じゃあ、コンビニは? オレ、コロッケ食べたい!」

 ──もしかして俺は今「おねだり」されているのだろうか。
 きゅるんっとした眼差しを向けられて、俺の心は大いにグラつく。
 コロッケくらいならおごってもいいか──いや、ダメだ。先週パンケーキをおごったせいで、俺の財布事情はかなり心許ないのだ。

「すみません、コンビニに行く予定もないので」

 遠回しに「おごりませんよ」と伝えると、ナツさんはぷっと唇をとがらせた。

「青野のケチ。いつもならおごってくれるのに」
「それは、ナツさんの恋人の『青野行春』のことかと」
「そうだけど、こっちの世界の青野はお前じゃん?」

 今度は、こてん、と首を傾げてみせる。
 どうしよう、可愛い。
 これぞ、まさに星井が言っていた「あざと可愛い」ってやつでは?
 揺らぐ心を理性で制して、俺はあいまいな笑みを浮かべた。

「たしかに、こっちの世界の『青野行春』は俺ですけど、俺はナツさんの恋人ではありませんよね?」

 さあ、これで引き下がってくれるか?
 若干身構えながらも、俺はナツさんの反応をうかがった。
 ナツさんは「うー」とか「むー」とか短いうなり声を発しながら、なにやら考え込んでいる。
 ──大丈夫かな。またおかしな方向に思考を巡らせているんじゃ。
 少し不安になってきたところで、ナツさんは「あっ」と顔をあげた。

「なあなあ! だったらさ、オレと青野が──」
「──あれ、星井?」

 入り口の自動ドアが開いたかと思うと、店員らしき男性が顔を出した。
 そのとたん、ナツさんはぴゃっと素早く俺の背後に隠れた。
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