6 / 124
第1話
5・夏樹への違和感(その2)
しおりを挟む
「これ、どうぞ」
俺が差し出した黒糖ロイヤルミルクティーを、夏樹さんはさっきよりも沈鬱な表情で受け取った。
「どうしたんですか?」
「やっぱ、怖い」
「え?」
「皆、目が黒い……黒い目なんて見たことない」
なんだ、またその話か。
夏樹さんは、いったいどうしてしまったんだろう。
「そんなに気になりますか?」
「なるって! だって、皆『緑』だったじゃん!」
「そんなことは……」
「青野、忘れちゃったの? お前だって、ソーダキャンディみたいな美味しそうな目をしてたのに!」
美味しそうな目とは一体──そう思ったものの、言葉にするのはひとまず控えた。今の夏樹さんは情緒不安定なのだ。刺激するような発言は、できるだけやめておいたほうがいい。
やがて、店員がパンケーキを運んできた。夏樹さんは、彼女の目を見て「黒……」と怯えたようだったけど、二段重ねのパンケーキを前にしたとたん、パァッと表情を一変させた。
「可愛い! おいしそう!」
弾けるようなその笑顔に、またもや俺はグゥッとなった。
知らなかった。この人、こんな顔もするんだ。心臓の上で誰かがタップダンスでもしているかのように、ドッドッと鼓動が鳴り響く。
その一方で、やっぱり違和感は増していた。
だって、あまりにも──いつもの夏樹さんと違いすぎる。
目の色にこだわっているのもそうだけど、それ以外の言動もまるで彼らしくない。パンケーキにはしゃいだり、いちいちスマホで撮影したり。
授業をサボることに抵抗がなさそうなのも気にかかる。俺の知っている夏樹さんは、こういうとき、キョロキョロと周囲をうかがいながら「サッと食べてサッと帰ろうな?」って耳打ちしそうなイメージだったのに。
「あの……気まずくないですか?」
「んー?」
「今って、本当なら授業を受けている時間帯ですよね?」
「んーそだねー」
ほら、あまりにもあっさりしすぎている。
(この人、本当に「夏樹さん」か?)
実は「別人」とか?
顔だけそっくりな「双子の兄弟」ってことは?
(そもそも、なぜこの人は俺の上に乗っかっていたんだ?)
それも、目隠しして手を縛って、俺の「俺」に息を吹きかけたりして──
(あ、まずい)
またもや腹の奥が熱くなってきた。なんとか気を紛らわせようと、俺はどうでもいいことを頭のなかで繰り返す。たとえば円周率。3・1415926535──
ポンッ、とスマホの通知音が聞こえた。メッセージアプリのものだ。
「あ……」
「どしたの?」
「──いえ」
送信者は、星井ナナセ──夏樹さんの妹であり、現在俺と交際中の、いわゆる「カノジョ」と呼ばれるポジションに当たる人物だ。
俺が差し出した黒糖ロイヤルミルクティーを、夏樹さんはさっきよりも沈鬱な表情で受け取った。
「どうしたんですか?」
「やっぱ、怖い」
「え?」
「皆、目が黒い……黒い目なんて見たことない」
なんだ、またその話か。
夏樹さんは、いったいどうしてしまったんだろう。
「そんなに気になりますか?」
「なるって! だって、皆『緑』だったじゃん!」
「そんなことは……」
「青野、忘れちゃったの? お前だって、ソーダキャンディみたいな美味しそうな目をしてたのに!」
美味しそうな目とは一体──そう思ったものの、言葉にするのはひとまず控えた。今の夏樹さんは情緒不安定なのだ。刺激するような発言は、できるだけやめておいたほうがいい。
やがて、店員がパンケーキを運んできた。夏樹さんは、彼女の目を見て「黒……」と怯えたようだったけど、二段重ねのパンケーキを前にしたとたん、パァッと表情を一変させた。
「可愛い! おいしそう!」
弾けるようなその笑顔に、またもや俺はグゥッとなった。
知らなかった。この人、こんな顔もするんだ。心臓の上で誰かがタップダンスでもしているかのように、ドッドッと鼓動が鳴り響く。
その一方で、やっぱり違和感は増していた。
だって、あまりにも──いつもの夏樹さんと違いすぎる。
目の色にこだわっているのもそうだけど、それ以外の言動もまるで彼らしくない。パンケーキにはしゃいだり、いちいちスマホで撮影したり。
授業をサボることに抵抗がなさそうなのも気にかかる。俺の知っている夏樹さんは、こういうとき、キョロキョロと周囲をうかがいながら「サッと食べてサッと帰ろうな?」って耳打ちしそうなイメージだったのに。
「あの……気まずくないですか?」
「んー?」
「今って、本当なら授業を受けている時間帯ですよね?」
「んーそだねー」
ほら、あまりにもあっさりしすぎている。
(この人、本当に「夏樹さん」か?)
実は「別人」とか?
顔だけそっくりな「双子の兄弟」ってことは?
(そもそも、なぜこの人は俺の上に乗っかっていたんだ?)
それも、目隠しして手を縛って、俺の「俺」に息を吹きかけたりして──
(あ、まずい)
またもや腹の奥が熱くなってきた。なんとか気を紛らわせようと、俺はどうでもいいことを頭のなかで繰り返す。たとえば円周率。3・1415926535──
ポンッ、とスマホの通知音が聞こえた。メッセージアプリのものだ。
「あ……」
「どしたの?」
「──いえ」
送信者は、星井ナナセ──夏樹さんの妹であり、現在俺と交際中の、いわゆる「カノジョ」と呼ばれるポジションに当たる人物だ。
20
お気に入りに追加
102
あなたにおすすめの小説
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。



塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
[BL]デキソコナイ
明日葉 ゆゐ
BL
特別進学クラスの優等生の喫煙現場に遭遇してしまった校内一の問題児。見ていない振りをして立ち去ろうとするが、なぜか優等生に怪我を負わされ、手当てのために家に連れて行かれることに。決して交わることのなかった2人の不思議な関係が始まる。(別サイトに投稿していた作品になります)

親衛隊は、推しから『選ばれる』までは推しに自分の気持ちを伝えてはいけないルール
雨宮里玖
BL
エリート高校の親衛隊プラスα×平凡無自覚総受け
《あらすじ》
4月。平凡な吉良は、楯山に告白している川上の姿を偶然目撃してしまった。遠目だが二人はイイ感じに見えて告白は成功したようだった。
そのことで、吉良は二年間ずっと学生寮の同室者だった楯山に自分が特別な感情を抱いていたのではないかと思い——。
平凡無自覚な受けの総愛され全寮制学園ライフの物語。

なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが
なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です
酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります
攻
井之上 勇気
まだまだ若手のサラリーマン
元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい
でも翌朝には完全に記憶がない
受
牧野・ハロルド・エリス
天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司
金髪ロング、勇気より背が高い
勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん
ユウキにオヨメサンにしてもらいたい
同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます

俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる