目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件

水野七緒

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第1話

3・夢かもしれない(その3)

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 自分の瞳の色が「黒」だと認識した夏樹さんは、そのままパニック状態に陥った。

「なにこれ怖い怖い、病気? オレ、病気なの!?」
「いえ、病気ということは──」
「じゃあ、なんで!? なんでオレの目、黒いの!?」
「なんでも何も、もともと黒かったですが……」
「そんなはずない! オレの目、緑だったもん!」

 これは──記憶障害か?
 あるいは重篤じゅうとくな病気? たとえば脳とかの? それとも二重人格? あれこれ考えてみたけれど、ただの高校生にすぎない俺に、そうしたジャッジができるはずがない。
 となると、今の俺にできるのは──

「夏樹さん、ひとまず落ち着きましょう」
「無理無理こんなの……」
「大丈夫です……まずは深呼吸をして……」

 一定のリズムで背中を叩きながら、開いたままだったズボンのファスナーをそれとなく戻す。この人は、俺の「俺」に何をする気だったのか──いや、その件を問いただすのは、もう少し先だ。今は混乱状態の夏樹さんを、なんとかして落ち着かせないと。
 トン、トン──と背中を叩き、夏樹さんの呼吸が緩やかになってきたところで、俺はそっとベッド脇のカーテンをめくってみた。
 案の定、保健室の先生はいなかった。まあ、そうだろう。いるなら、とっくに「どうしたの!?」と駆けつけているはずだ。
 さて、ここからどうするべきか。
 俺の体調不良は、少し眠ったおかげでだいぶ解消された。これなら、教室に戻って授業を受けても特に問題はなさそうだ。
 けれど、夏樹さんが離れてくれない。俺にしがみついたまま、すんすん鼻をすすっている彼は、なんだかいたいけな小学生のようだ。

(まいったな)

 こんな彼を放っておいて、ひとりだけ教室に戻るなんてできない。それに、夏樹さんの様子がいつもと違うのも気にかかる。
 迷った末に、俺は「夏樹さん」と優しく声をかけた。

「まだ気分が優れませんか?」
「……」
「だったら、このまま早退しますか?」

 夏樹さんは、ようやく顔をあげてくれた。涼しげな目元はどこか頼りなさげで、腹の奥が妙にうずいた。

「青野、オレ……お腹すいた」
「そうですか。では、なにか買って帰りますか?」
「甘いの……甘いのが飲みたい!」

 甘いもの──サイダーとかオレンジジュースだろうか。それともココア? 夏樹さんと甘いドリンクって、どうもしっくりこないけど。

「あとさ、パンケーキ食べたい」
「そうですか。では、駅前のカフェに寄りましょうか」

 テイクアウトできたかは不明だが、もし不可なら他の店を当たればいい。探せば、ひとつくらい持ち帰りできる店があるだろう。

「いいの?」

 真っ黒な目が、キラキラと輝いた。

「やった! 青野、大好き!」

 ぎゅん、と何かが勢いよく上向いたような気がした。
 それが何なのかは、敢えて考えないことにした。
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このシリーズの前のお話です。よろしければ…
「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」


こちらはBL未満のお話です
「モフモフ野郎と俺の朝ごはん」
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