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第7話
13・帰路(その2)
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覚悟していたことではあったが、幹線道路沿いを歩いていたにも関わらずタクシーはまったくつかまらなかった。それらしい灯りを見かけるたびに期待を込めて足を止めては、「賃走」もしくは「迎車」の表示に肩を落とす、その繰り返しだ。
「三辺、大丈夫? ついてきてるか?」
前をゆく緒形から大声で問われるたびに、菜穂も「うん、大丈夫!」と声を張りあげる。そうしたやりとりを何度か繰り返すうちに、たまたま冷たい空気が菜穂の喉に突き刺さった。
「ん……っ、けほ……っ」
たまらず、菜穂は咳き込んだ。それに気づいた緒形が「大丈夫か?」と菜穂の背中を上下にさすった。
「大丈、夫……平、気……」
「けど……」
「ほんと、平気……っ、だから……」
涙目ながらもなんとか顔をあげたそのタイミングで、ばさりと白いかたまりが雪面に落ちた。
雪だ。それも、おそらく緒形の頭に積もっていたものだ。
それを見て、ようやく菜穂は、緒形がずっと自分の雪よけになってくれていたことに気がついた。
「ごめん、緒形くん! 雪……」
「いいって。それより大丈夫そうなら、さっさと歩くぞ」
ザク、ザク、と再びブーツが雪面を踏みしめる。とはいえ、今日菜穂が履いているのは、雪が少ない都会の冬を過ごすためのものだ。このブーツで、大雪の上を歩くことはおそらく想定されていない。
(爪先、感覚なくなりそう……)
ただでさえ雪の上は冷たいというのに、靴の縫い目からじわりと入り込んできた水分が、さらに体温を奪ってゆく。
それでも、黙々と歩き続けること数十分──ようやく、商店街のあかりが見えてきた。このまま突き進めば、そう時間がかからず駅前に辿りつくはずだ。
「三辺、走れるか? 横断歩道、渡るぞ」
待って、と口にする間もなく、緒形はすでに走りはじめている。
菜穂も、慌ててそのあとを追おうとした。けれど、溝が少なめのブーツの底は、固くなった雪上を容赦なく滑った。
「三辺、大丈夫? ついてきてるか?」
前をゆく緒形から大声で問われるたびに、菜穂も「うん、大丈夫!」と声を張りあげる。そうしたやりとりを何度か繰り返すうちに、たまたま冷たい空気が菜穂の喉に突き刺さった。
「ん……っ、けほ……っ」
たまらず、菜穂は咳き込んだ。それに気づいた緒形が「大丈夫か?」と菜穂の背中を上下にさすった。
「大丈、夫……平、気……」
「けど……」
「ほんと、平気……っ、だから……」
涙目ながらもなんとか顔をあげたそのタイミングで、ばさりと白いかたまりが雪面に落ちた。
雪だ。それも、おそらく緒形の頭に積もっていたものだ。
それを見て、ようやく菜穂は、緒形がずっと自分の雪よけになってくれていたことに気がついた。
「ごめん、緒形くん! 雪……」
「いいって。それより大丈夫そうなら、さっさと歩くぞ」
ザク、ザク、と再びブーツが雪面を踏みしめる。とはいえ、今日菜穂が履いているのは、雪が少ない都会の冬を過ごすためのものだ。このブーツで、大雪の上を歩くことはおそらく想定されていない。
(爪先、感覚なくなりそう……)
ただでさえ雪の上は冷たいというのに、靴の縫い目からじわりと入り込んできた水分が、さらに体温を奪ってゆく。
それでも、黙々と歩き続けること数十分──ようやく、商店街のあかりが見えてきた。このまま突き進めば、そう時間がかからず駅前に辿りつくはずだ。
「三辺、走れるか? 横断歩道、渡るぞ」
待って、と口にする間もなく、緒形はすでに走りはじめている。
菜穂も、慌ててそのあとを追おうとした。けれど、溝が少なめのブーツの底は、固くなった雪上を容赦なく滑った。
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