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第5話

21・冒険の結果(その2)

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 菜穂は、手を止め、まじまじと緒形を見た。
 まず思ったのは「空耳だろうか」ということだ。それくらい緒形の口調はさり気なく、なんなら「明日、雨だってさ」と言われたほうがまだしっくりきたかもしれない。
 その次に脳裏をよぎったのは「お詫びのつづきだろうか」ということ。それならば、はっきりと断るべきだ。お礼もお詫びも、目の前の牛丼で十分足りている。
 けれど、本当はそのどちらでもないだろうということを、菜穂は薄々わかっていた。
 だからこそ、その可能性を認めるのは勇気がいった。もしも、この「3つめの可能性」が自分の勘違いだったとしたら、恥ずかしさといたたまれなさで立ちなおれなくなってしまう。

(実際、今日のこのお誘いだって、ただの「お詫び」だったわけだし)

 菜穂は、うつむいた。身構えれば身構えるほど、正しい「返答」がわからなくなった。
 なんなら、緒形のことを少し恨めしく思ったりもした。そんな雑談のついでのような誘い方ではなく、どういう意図があるのかはっきり示してくれたらいいのに。
 すると、隣からくすりと小さな笑い声が届いた。

「あーやっぱりダメな感じ?」

 菜穂は、弾かれたように顔をあげた。

「牛丼ならいけるかなーって思ったんだけど。三辺、けっこう気に入ったみたいだし」
「気に入ったよ、気に入ったけど……次はひとりで来るつもりだったから」

 取り繕うことも忘れて正直に伝えると、緒形は「ひとりかぁ」と苦笑した。

「戦力外通告するの、早すぎない?」
「えっ」
「そっかぁ、俺はもうお払い箱かぁ」

 やや芝居がかった仕草で肩を落とす緒形に、菜穂はさらに慌てて「違うよ」と否定した。

「お払い箱とか、そういうわけじゃなくて……」
「うそうそ、わかってる。冗談だから、適当に聞き流して」

 今度は、屈託のない笑顔が返ってきた。本当に、緒形としては冗談のつもりだったらしい。
 ああ、そうか。
 今、この場で自分は「そうそう、緒形くんはもうお払い箱だよ」と軽く返せばよかったのか。そうすれば、この話題はなんということはなく終わっていたはずだったのに。
 菜穂は、目の前の丼に視線を落とした。こんなとき、自分の鈍くささがつくづく嫌になる。

「……三辺?」

 菜穂が再び黙り込んでしまったせいだろう、緒形が気遣わしげに声をかけてきた。

「あの……なんかごめんな。今の、本当に冗談のつもりだったから」
「わかってる。こっちこそごめん、うまく返せなくて」
「いや、そんなのぜんぜんいいんだけどさ。三辺だし」

 最後の一言が、菜穂の心に刺さった。緒形から、やわらかく線を引かれたように感じた。
 もちろん、ただの考えすぎかもしれない。いや──おそらく、そうなのだろう。
 それでも菜穂は唇を引き結んだ。自分でもうまく説明できそうになかったが、とにかくこのままこれで終わりにはしたくはなかった。

「あのね、牛丼のことだけど」

 迷った末、菜穂は思いきって口を開いた。

「もともと、ひとりで来てみたかったの。ひとりでお店に入って、さっと食べて、さっと帰って……そういうの、やってみたかったの」
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