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第5話

11・トラブルの気配(その1)

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 翌日、その日最初のメールチェックを終えた菜穂は、ずんと胃が重くなるのを感じていた。

(やっぱり……小高さんの原稿、あがってきていない)

 昨日の夕方の時点で、届いているはずの原稿だ。菜穂が二度目の催促の電話をいれたときは、さすがに気まずそうに「今晩中になんとかするから」と言っていたはずなのだが。

(電話……どうしよう)

 午前中いっぱいは待つとして、それでもあがってこなければ三度目の電話をかけなければいけない。
 胃のあたりを軽くおさえながら、菜穂は別のメールを開封した。営業アシスタントの女性からで、今日依頼予定の原稿の資料を13時までに送付するとのことだった。

(よかった、こっちは予定どおりに進みそう)

 この原稿を依頼するのは、A社の永野だ。彼女なら、問題なく納期どおりに仕上げてくれるだろう。
 少しだけ気分が軽くなった菜穂は、校正にまわす予定の原稿の束を抱えて制作部を出た。

(この時間だと、浜島さんひとりってことはないよね)

 校正担当の浜島とは、あれ以降も何事もなかったかのように接している。
 とはいえ、お互いの間にできた溝はどうにもならない。菜穂としても、裏での浜島の発言を聞いてしまった以上、彼を好意的に見ることは二度とないだろう。

(今となっては良かったのかも……緒形くんに邪魔してもらえて)

 あのときはひどく腹をたてたし、今でも彼のあの行動の意図を理解できずにいるが、結果的に助けられたことだけは間違いない。
 いつかお礼を言えれば……そう思ったときだった。

「ほんと、すみません!」

 聞き覚えのある声に、菜穂は思わず足を止めた。
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