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第5話
10・冒険を試みるも……
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そのチラシは、有名な牛丼チェーンのものだ。もちろん、名前だけなら菜穂もよく知っている。
ただ、店に入ったことはなかった。なんとなく気になってはいたのだが、今まで行く機会がなかったのだ。
(せっかくだし、入ってみようかな)
これも、ちょっとした冒険だ。
菜穂は小さくうなずくと、いつもの横断歩道を曲がらずに左折した。
店は、そこから50メートルほど先にあり「オープン記念・割引キャンペーン」につられた人たちで少しばかりの列ができていた。
並んでいるのは、大学生や会社員──その多くが男性ばかりであることに、早くも菜穂は怯んでしまった。
(女性のお客さんはいないのかな)
待機列を確認すると、ひとりだけいた。ただし、その隣には彼女の連れと思われる男性客がいる。
店内にも女性客の姿がちらほらあったが、やはり隣には男性がいて、おしゃべりをしながら牛丼を頬張っていた。
菜穂は、迷った。
この列に、女性ひとりで並ぶのは場違いではないだろうか。
いや──女性ひとりで入っても構わないはずだ。大学時代の同級生に、頻繁に牛丼屋に通っていた友人がいたのだから。
(ああ、でも……)
そういえば、その彼女に言われた気がする。「菜穂は、ああいうお店には向いてないよ」「もっと、ちゃんとしたお店で食べたほうがいいって」と。
足が、重くなった。
菜穂は、改めてチラシに目を落とした。
それから、満席の──男性だらけの店内に目を向けた。
(今日は……やめておこうかな)
もらったチラシをていねいに折りたたむと、菜穂は今来た道を戻り帰路についた。
どこからか「菜穂って、ほんと慎重だよねぇ」との声が聞こえてきたような気がした。
ただ、店に入ったことはなかった。なんとなく気になってはいたのだが、今まで行く機会がなかったのだ。
(せっかくだし、入ってみようかな)
これも、ちょっとした冒険だ。
菜穂は小さくうなずくと、いつもの横断歩道を曲がらずに左折した。
店は、そこから50メートルほど先にあり「オープン記念・割引キャンペーン」につられた人たちで少しばかりの列ができていた。
並んでいるのは、大学生や会社員──その多くが男性ばかりであることに、早くも菜穂は怯んでしまった。
(女性のお客さんはいないのかな)
待機列を確認すると、ひとりだけいた。ただし、その隣には彼女の連れと思われる男性客がいる。
店内にも女性客の姿がちらほらあったが、やはり隣には男性がいて、おしゃべりをしながら牛丼を頬張っていた。
菜穂は、迷った。
この列に、女性ひとりで並ぶのは場違いではないだろうか。
いや──女性ひとりで入っても構わないはずだ。大学時代の同級生に、頻繁に牛丼屋に通っていた友人がいたのだから。
(ああ、でも……)
そういえば、その彼女に言われた気がする。「菜穂は、ああいうお店には向いてないよ」「もっと、ちゃんとしたお店で食べたほうがいいって」と。
足が、重くなった。
菜穂は、改めてチラシに目を落とした。
それから、満席の──男性だらけの店内に目を向けた。
(今日は……やめておこうかな)
もらったチラシをていねいに折りたたむと、菜穂は今来た道を戻り帰路についた。
どこからか「菜穂って、ほんと慎重だよねぇ」との声が聞こえてきたような気がした。
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