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第5話

6・千鶴からの追及

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 営業部署への愚痴を緒形に聞かれたことに、千鶴も気まずさを覚えたのだろう。

「いえ、その……緒形さんは関係ないんで」
「いやぁ、でも、俺も制作さんにはけっこう無茶な依頼をお願いするから。──ギリギリまで先方と交渉しているせいなんだけどね」
「それは、よく、わかってますんで」

 不自然に言葉を区切りながら、千鶴は取り繕ったような笑顔を見せる。
 一方、菜穂はドクドクと鳴る心臓をなんとか落ち着かせようと必死だった。

(どうして、こんな真後ろに……)

 今、緒形と会話をしているのは千鶴だ。菜穂ではない。
 それなのに、緒形の両手はどういうわけか菜穂の肩の上に置かれている。特に深い意味はないのかもしれないが、菜穂としてはどうしても意識せずにはいられない。

「ところで、マネージャーの小山さんは?」
「あ、ええと……会議みたいですね。そろそろ戻ってくると思いますけど」
「そっか。じゃあ、またあとで来ようかな」

 それじゃ、おつかれ──と朗らかな挨拶を残して、緒形は自分の部署に戻っていった。去り際に、菜穂の肩を軽く押すというおまけ付きで。

「……っ」

 大げさに背中を跳ねさせた菜穂は、たまらず顔をうつむけた。
 頬が熱い。今にも頭が沸騰してしまいそうだ。
 たかだか肩を押されただけなのに──一昨日の夜などもっと深い部分に触れられたというのに、どういうわけか今のやりとりのほうが、菜穂にはどうにも気恥ずかしい。

「……菜穂?」

 当然、そんな彼女を見逃す千鶴ではなかった。

「なになに、どういうこと? もしかして緒形さんと進展した?」
「べつに……そんなことは」

 むしろ別れたから──そう続けようとした言葉は、千鶴の「嘘」という声に掻き消された。

「絶対なにかあったでしょ! ってことは、やっぱり──」

 意味ありげな視線から逃げるように、菜穂は同僚から顔を背ける。
 けれど、それであきらめる千鶴ではない。彼女は椅子ごとぴたりと身体を寄せると、好奇心に満ちた眼差しをぶつけてきた。

「ね、あとで詳しく聞かせてよ」
「そんなこと──」
「お昼と仕事終わり、どっちがいい?」

 どうやら彼女は退く気がないらしい。
 仕方なく、菜穂は「仕事終わりで」と答えた。ひそかに「今日は残業になりますように」と願いながら。
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