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第5話

5・週が明けて……

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 週明けの制作部署は、たいていいつも忙しい。
 進行管理を任されている菜穂は、朝から制作会社やクライアントに電話を入れ、原稿の進捗確認に追われていた。

『あのさ、最終締め切りが今週末なのはわかってるよ? けどさ、そっちも、この原稿を依頼してきたの、金曜日の夕方だったよね?』

 挨拶もそこそこに厳しい口調をぶつけてきたのは、この日3件目の電話相手──とある制作会社のライターだ。

『それで、こんな午前中から原稿の催促されてもさぁ。……もしかして「週末つぶして仕事しておけよ」ってこと?』
「いえ、そのようなつもりは……」
『だったら、とりあえず夕方までは待ってよ。そのころにはあがってるはずだからさぁ』
「わかりました。よろしくお願いします」

 最後まで言い終わらないうちに、通話は切られた。
 ついため息をこぼすと、隣で同じような作業をしていた千鶴が「もしかしてC社の小高さん?」と声をかけてくる。

「うん……『朝から催促の電話をよこすな』って怒られちゃった」
「なにそれ、小高さん、いつも締め切りぶっちぎってるじゃん。こっちだって、今週中に原稿をFIXさせないといけないから進捗確認してるってのに」
「でも、うちの依頼が遅れたのも確かだから」

 先週はじめに依頼するはずだった原稿が、ずれにずれこんだのは営業担当者とクライアントが揉めたせいだ。
 予定していた出稿を取りやめると騒ぐクライアントに、営業部署のマネージャーまでが同行して頭を下げ、なんとか怒りをおさめてもらったのが金曜日の昼過ぎ。そこから資料を揃えたりなんだりで、制作会社への依頼が遅くなってしまったのだ。

「今月は全体的にバタバタだよね。隣のチームでも、いつもの大手クライアントが暴れてるみたいだし」
「大手企業の担当チームは大変だよね」

 大手企業が出稿を取りやめるとなると、めまいがするような損失が発生する。 
 もちろん、紙面への影響も大きい。場合によっては、急きょ数ページを穴埋めしなければいけなくなる。
 一方、菜穂や千鶴の所属チームが抱えているのは、金額が小さめな取引先ばかりだ。万が一、クライアントが出稿を取りやめるような事態が発生しても、大手企業の場合とは損失の桁がひとつ少ない。紙面の穴埋めも、かろうじてなんとかできなくはないだろう。
 ただ、その分、関わるクライアント数はかなり多く、進捗状況を洩らさず把握するのはなかなか骨が折れる作業だ。特に今回のようにイレギュラーな事態が発生した場合、どの制作会社にどの仕事を頼むのか、その割り振りだけでも苦労する。

「千鶴のほうはどう?」
「うちは、今のところ順調かな」
「でも、金曜日に厄介な依頼がきたって言ってなかった?」
「ああ、あれね。クライアントの発言が意味不明なやつ」

 でもね、と千鶴はファイルを開いた。

「見てよ、これ! A社の永野さんにお願いしたんだけど」
「すごい……ちゃんとわかりやすくまとまってる!」
「ね、永野さんってすごいよね。ほんと、彼女になら安心して原稿を依頼できるよ」

 A社の永野には、菜穂も1本原稿をお願いすることになっている。こちらも営業都合で依頼がギリギリになりそうだが、彼女からは「大丈夫ですよ、ちゃんとスケジュールをあけていますので」と快い返答をもらっていた。

「ていうか、営業も営業だよね。むちゃくちゃな日程で依頼しすぎだっての!」
「自社制作なら、まだいいんだけどね」
「ね、外部にお願いする原稿くらい早めに依頼してほしいよ。制作会社から嫌みを言われるの、間に立つ私らなのに」

 不満そうに椅子の背もたれを軋ませた千鶴だったが、ふいにギョッとしたようにその身体をまっすぐただした。

「どうしたの、千鶴」
「あ……え、ええと……」

 気まずげに千鶴が視線を泳がせるのと、誰かが菜穂の両肩に軽く手を置くのが重なった。

「それは申し訳なかったな」

 週末さんざん耳にしたその声に、菜穂の心臓が大きく跳ねた。
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