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第5話

2・菜穂からの質問

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 緒形が追いかけてきたことに、菜穂はたいそう驚いたらしい。地味めなアイシャドウで彩られた目が、ぱちりと大きく瞬いた。

『どうしたの、いきなり』
『いや、だから……そのままの意味なんだけど』

 ひとまずそう答えたのは、自分でもどうしてこのような行動を取ってしまったのか、よくわからなかったからだ。つまりは、ある種の「逃げ」のようなものだ。
 けれど、そんな緒形の心情など、当然菜穂は知るよしもない。

『そんな……突然そんなことを言われても……』

 困惑したようにうつむく彼女を見て、緒形は「まあ、そうだよな」と苦い気持ちになった。たしかに、この申し出は突然過ぎただろう。彼女だけじゃない、実際に口にした自分ですら戸惑っているくらいだ。
 その一方で、うっすらとした不満がざらりと胸をこすった。ここまで困るということは、菜穂にとって、交際の継続はほぼ「あり得ない」ことだったのだろう。
 それは、それで──なんとなく面白くない。
 たしかに、今の彼女が自分に恋愛感情を抱いていないことはわかっている。それでも、緒形としては一緒にいて楽しいひとときもあったのだ。
 特に、昨夜ベッドで遅くまでふたりでおしゃべりをしていた時間は楽しかった。
 10年前、ひそかに緊張しながら、公園のベンチで時間が許すかぎりおしゃべりしていたときとも違う──もっとやわらかく緩やかな昨夜のあの時間は、緒形にとってひどく心地よかったのだ。
 あんな時間を過ごせるのなら、菜穂と交際を続けるのも悪くはない。彼女を「抱けるかどうか」についても、経験を積んだ今となっては問題ないはずだ。

『……あの』

 菜穂が、ようやく口を開いた。
 その眉間にしわが刻まれていることに気がついて、緒形はわずかに顎を引いた。
 たぶん、これから彼女が口にしようとしているのはあまり愉快な内容ではない。それでも耳を傾けないわけにはいかず、緒形は「うん?」と先をうながした。

『あのね、緒形くん……もしかしてだけど』

 菜穂は、そこでいったん言葉を切ると──やがて意を決したように顔をあげた。

『私がまだ誰ともそういうことをしていないの、自分のせいだと思ったりしていない?』
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