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第4話
18・10年前の謝罪
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突然の緒形からの土下座に、菜穂はぽかんと口を開けた。
「えっ、あの……緒形くん?」
呼びかけてみたものの、緒形は頭をあげようとしない。布団に額をこすりつけたまま、再度「ごめん」と繰り返す。
「10年前、俺、三辺にひどいことを言った。──覚えてるよな?」
どくん、と心臓が嫌な感じに跳ねる。もちろん覚えている──忘れたくても忘れられなかった。けれど──
なんて答えるべきかしばし迷って、菜穂はようやく「うん」とうなずく。土下座したままの緒形の肩が、どういうわけかわずかに震えた。
「あのときのアレ、三辺が悪いんじゃない。俺がめちゃくちゃ緊張しすぎて、それで、うまくできなかった──ぜんぶ俺のせいなんだ」
「……え」
「なのに、そんなカッコ悪いこと認めたくなくて、ぜんぶ三辺のせいにした。三辺がダメってことにした。本当にダメだったのは俺なのに。ごめん、本当にごめん。ごめんなさい」
緒形は未だ頭をあげることなく、ただただお詫びの言葉を繰り返す。
菜穂は、困惑した。突然差し出された10年前の真実を、どう受け取ればいいのかわからなかった。
「あの……ええと……」
ひとまず口から出たのは、真っ先に脳裏に浮かんだ疑問だ。
「結局、それも『私だとダメ』ってことにならない? 私が相手だから、その……反応しなかったってことで……」
「そんなことない。その──」
緒形は、何やらボソボソと訴える。けれど、顔を伏せたままなので、何を言いたいのか、ニュアンスすらも伝わってこない。
やむを得ず、菜穂は緒形の肩に手を置いた。
「とりあえず、顔あげてもらってもいい? 声、聞こえないし、いつまでも土下座されてるのもちょっと……」
「あ……う、うん、そうだよな」
緒形は、ようやく顔をあげた。
なにかと女性社員たちの目を引きやすいその顔貌も、今この場では魅力3割減といったところか。冴えない顔つきな上、菜穂とまったく目を合わせようとしてくれない。
「……それで? どうして『そんなことない』の?」
先ほどの質問に話題を戻すと、緒形は「あー」だの「うー」だの、呻くような声をあげた。
「だからさ、その……なんていうか……つまり」
「うん」
「──けてたから」
また、声が小さくなった。菜穂は、申し訳なく思いつつも「ごめん、聞こえない」と正直に返した。
「……っ、だから!」
緒形の声のボリュームが、一気に3段ほど跳ねあがった。
「俺、ぜんぜん抜けてたから! 三辺で! 余裕だったから! だから、あれは三辺の問題じゃなくて俺の問題! あのとき、緊張しすぎた俺のせい! わかった?」
「えっ、あの……緒形くん?」
呼びかけてみたものの、緒形は頭をあげようとしない。布団に額をこすりつけたまま、再度「ごめん」と繰り返す。
「10年前、俺、三辺にひどいことを言った。──覚えてるよな?」
どくん、と心臓が嫌な感じに跳ねる。もちろん覚えている──忘れたくても忘れられなかった。けれど──
なんて答えるべきかしばし迷って、菜穂はようやく「うん」とうなずく。土下座したままの緒形の肩が、どういうわけかわずかに震えた。
「あのときのアレ、三辺が悪いんじゃない。俺がめちゃくちゃ緊張しすぎて、それで、うまくできなかった──ぜんぶ俺のせいなんだ」
「……え」
「なのに、そんなカッコ悪いこと認めたくなくて、ぜんぶ三辺のせいにした。三辺がダメってことにした。本当にダメだったのは俺なのに。ごめん、本当にごめん。ごめんなさい」
緒形は未だ頭をあげることなく、ただただお詫びの言葉を繰り返す。
菜穂は、困惑した。突然差し出された10年前の真実を、どう受け取ればいいのかわからなかった。
「あの……ええと……」
ひとまず口から出たのは、真っ先に脳裏に浮かんだ疑問だ。
「結局、それも『私だとダメ』ってことにならない? 私が相手だから、その……反応しなかったってことで……」
「そんなことない。その──」
緒形は、何やらボソボソと訴える。けれど、顔を伏せたままなので、何を言いたいのか、ニュアンスすらも伝わってこない。
やむを得ず、菜穂は緒形の肩に手を置いた。
「とりあえず、顔あげてもらってもいい? 声、聞こえないし、いつまでも土下座されてるのもちょっと……」
「あ……う、うん、そうだよな」
緒形は、ようやく顔をあげた。
なにかと女性社員たちの目を引きやすいその顔貌も、今この場では魅力3割減といったところか。冴えない顔つきな上、菜穂とまったく目を合わせようとしてくれない。
「……それで? どうして『そんなことない』の?」
先ほどの質問に話題を戻すと、緒形は「あー」だの「うー」だの、呻くような声をあげた。
「だからさ、その……なんていうか……つまり」
「うん」
「──けてたから」
また、声が小さくなった。菜穂は、申し訳なく思いつつも「ごめん、聞こえない」と正直に返した。
「……っ、だから!」
緒形の声のボリュームが、一気に3段ほど跳ねあがった。
「俺、ぜんぜん抜けてたから! 三辺で! 余裕だったから! だから、あれは三辺の問題じゃなくて俺の問題! あのとき、緊張しすぎた俺のせい! わかった?」
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