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第3話

11・映画も終わり……

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 結論からいうと、緒形の思惑とは真逆の結果となった。
 映画のエンドロールが終わり「思ってた以上に楽しめたな」と満足していた菜穂の隣で、緒形はうつむいたまま、なかなか動こうとしない。

「緒形くん? どうしたの?」
「……いや……」

 答える声は、いつになく頼りなげだ。営業職のせいか、普段の彼は聞き取りやすいはっきりとした物言いをする。つまり、こうしたか細い声は実にめずらしい。

「もしかして具合が悪い? 動けない?」

 とはいえ、次の上映もあるので、このまま居座るわけにもいかない。
 いったん劇場の外に出てベンチで休むか、あるいは映画館のスタッフに声をかけて──そこまで考えたところで、緒形に左腕を掴まれた。

「ほんと大丈夫……具合が悪いとかじゃないから」
「でも……」
「いや、ほんとに! ちょっと驚きすぎたっていうか……この映画、B級ホラーだと思ってたのにぜんぜんガチガチの本格的なやつだったから心構えができていなくてそのせいで一発目の壁から顔が出てくるところで心臓への負荷がちょっと大きすぎて──」

 いきなり頭をあげたかと思うと、今度は勢いよくまくしたてる。
 それで、ようやく気がついた。

「つまり、怖かったんだ?」
「いや、ぜんぜん!?」

 そのわりに声が裏返っている。

「そんなわけないだろ、ホラー映画が怖いなんて、そもそもチョイスしたの俺だし、べつに怖いとかそんなはず……」
「でも、たしかに本格的だったよね。緩急の付け方が上手だったし、見せ方もすごく工夫していて、今晩夢に出てきそう」

 悪気なく口にしたその感想に、緒形は「ひっ」と声をあげた。

「やめて、マジで俺、ひとりで寝られなくなる!」

 メガネの奥の目が、水を張ったように潤んでいる。高校時代でさえも見たことがなかった彼の一面に、菜穂はたまりかねて吹きだしてしまった。
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