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第3話

10・ラブストーリーだけは……

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 何をいきなり、と思いつつ菜穂は「どれでも」と答えた。

「あ、ホラーもいける感じ?」
「暴力描写がきつくなければ。どうして?」
「今日観る映画、どれにしようかまだ迷ってて」

 ああ、そういえば映画がどうのと言っていたか。
 菜穂は少し考えこんでから「だったらヒューマンドラマかホラー」と返した。
 今はラブストーリーを観る気にはなれなかった。それもお涙頂戴系ならなおさらだ。

「じゃあ、ホラーで」

 席予約しとく、と緒形はスマホを操作する。
 やっぱり慣れているな、と菜穂は感じた。これまでデートと呼べるものを数えるほどしかしてこなかった自分とは大違いだ。
 それから1時間ほどカフェで時間をつぶして、映画館に移動した。
 上映館は、大きな通りをはさんだすぐ目の前にあって、そういえばこのあたりには他にもいくつか映画館があることを今更のように思い出す。おそらく、そのあたりも踏まえて、緒形はこのカフェを選んだのだろう。

(やっぱり慣れてる)

 東京に戻ってきて、まだ2週間のはずなのに。
 それともこうした気遣いも、営業という仕事柄当然なのだろうか。
 週末ということもあって、館内のメインロビーはそれなりに混雑していた。
 とはいえ、ホラーを観たい人は少ないようで、指定されたシアター10は半分も座席が埋まっていなかった。

「怖かったら遠慮なく抱きついてくれていいから」

 ポップコーンを摘みながら、緒形はにやりと笑った。

「そんなことしないよ」
「まあまあ、そう言わず」

 からかうような口調に「絶対にそんなことするものか」と菜穂が誓ったところで、館内の照明が落とされた。
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