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第2話

7・甘い飲み物

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 中途半端な時間帯のせいか、休憩室には誰もいなかった。
 緒形は、内心胸をなでおろしつつ「座って」と菜穂に一番奥の椅子を示した。
 正直、ここに辿り着く前に、なんらかの理由をつけて逃げられるのではと思っていた。けれど、いざ歩きだしたら、彼女は案外素直に着いてきた。もっとも、単に逆らう気力がなかっただけなのかもしれない。それくらい、今の菜穂はぐったりと萎れている。

「なにか飲む?」
「……」
「コーヒー飲めたっけ?」

 休憩室に設置された自動販売機で、まずは無糖の缶コーヒーを購入する。
 もう一本は違う種類のコーヒーを選んで、菜穂に選ばせるか――と指をのばしかけたところで、ふとココアの缶が目に入った。

(そういえば……)

 緒形は、迷いつつもココアのボタンを押した。そうして購入した2本のドリンク缶を、菜穂の前にトントンッと並べた。

「好きなほうをどうぞ」
「……別に……」
「遠慮なく。仕事の相談のお礼だから」

 菜穂は、困惑したような目で緒形を見た。おそらく何か裏があるのでは、と疑っているのだろう。
 なので、これでもかというほどの営業用スマイルを浮かべてみせた。さらに「どうぞ」と手まで添えて。
 やがて、菜穂はためらいながらもココアを手に取った。

(やっぱり)

 己の記憶の正しさに、少しだけ誇らしげな気分になる。
 そう、高校時代の彼女は、よく甘い飲み物を口にしていた。
 放課後、公園のベンチでおしゃべりするときも、その手にあるのはいつも缶のココアやミルクティーで、ある日それを指摘すると「苦いの、苦手だから」と恥じらうようにうつむいた。今よりもつるりとしていた頬がうっすらと赤く染まっていたのを、緒形は今でも覚えている。

(まだコーヒーとか苦手だったりして)

 ──いや、さすがにそれはないか。
 今の自分たちは、20代後半の「いい大人」だ。

「あの、仕事の相談ってどんなこと?」

 缶コーヒーのプルタブに指をかけたところで、菜穂がためらいがちに訊ねてきた。

「私、緒形くんのチームの担当じゃないから、あまり相談にのれないかもしれないけど」
「あー」

 そんなことはわかっている。
 わかっていて、ここまで引っ張ってきた。

(だって、放っておけないだろ。昔なじみとして)

 とはいえ、仕事を口実に連れてきたのだ。何かしらそれらしい相談を持ちかけなければいけない。
 さて、どうしようか。空腹のせいで反応が鈍い頭を、緒形はなんとか働かせようとした。
 けれど、彼がそれらしい言い訳を思いつくよりも先に、菜穂が消え入りそうな声で呟いた。

「もしかして、嘘だった?」
「えっ」
「仕事の相談って……嘘だよね?」
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