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第2話
2・週が明けて……
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月曜日、浮かない気持ちをズルズルと引きずったまま、菜穂は派遣先に出社した。
「おはようございます」
「おっはよー、菜穂!」
派遣仲間の千鶴が、さっそく左腕にじゃれてくる。
「どうだった、土曜日」
「……」
「……あれ、もしかして聞かないほうがいい感じ?」
菜穂は、曖昧な笑みを返すと自席についた。
さすがに、いろいろ相談にのってくれた千鶴には最低限の説明をしなければいけないだろう。
だが、何をどう言えばいいのか。まさか「偶然、待ち合わせ場所にあらわれた高校時代の元カレに、その場をさんざん掻きまわされて、デートは中止になりました」とでも?
(意味がわからない)
結局、2日経っても菜穂は一連の緒形の行動を理解できずにいた。
本人いわく
――「まあ、なんとなく?」
――「たまたま見かけたから、ちょっとからかおうかなって」
とのことだったが、いくらなんでも度が過ぎている。菜穂にしてみれば、あれは「からかい」を通り越して、もはや「嫌がらせ」の類だ。
(たしかに、もともと軽薄なところはあったけど……)
記憶のなかの緒形は、あそこまでひどいことをする人ではなかったはず。それとも、当時は単に気づいていなかっただけなのだろうか。
重いため息とともに、菜穂はパソコンの電源を入れた。起動している間、スマホのメッセージアプリを確認したが、浜島へのメッセージはあいかわらず未読のままだった。
その事実が、よりいっそう菜穂の気持ちを暗くさせた。
(絶対、怒ってるよね)
緒形とは違い、浜島は誠実な人だ。それだけに、土曜日の出来事を許してはくれないだろう。
(もうデートできなくてもいい)
今更そんな図々しいことは考えていない。
ただ、できれば誤解を解きたかった。
それが無理なら、せめて謝罪だけでもさせてほしい。
(でも、どうすれば……)
うつむきかけたところで「三辺さん!」と声をかけられた。やってきたのは、菜穂が担当している営業部署の女性だ。
「ごめん、金曜日にオッケーもらってた原稿、クライアントから再修正入っちゃった!」
手を合わせ、深々と頭を下げてくるあたり、もしかしたらかなり修正箇所が多いのかもしれない。
「わかりました。原稿は今……」
「お昼までに、先方の担当者が赤入れして送ってくれるはず」
「では、届き次第ディレクターにまわしますね」
「ありがとう。ついでに校正さんにもまわしておいてもらえる?」
「了解です。15時までにいただければ、今日中に……」
そこまで言いかけたところで、ハッとした。
もしかしたら、そのタイミングで、浜島と言葉をかわせるかもしれない。
「三辺さん? どうかした?」
「あ、いえ……では、校正までまわしておきますので」
「ありがとう、ほんとごめん! 今後なにかおごるから」
いえ、と控えめに微笑んで、菜穂は引き出しから付箋紙を取り出した。
修正作業の工程を書き込みながら、ほんの少しだけ、心が軽やかになっていることに気づいていた。
(もし、校正室に浜島さんしかいなかったら直接謝罪できるかもしれない)
あるいは、他に誰かがいたとしても、伝える手段がないわけではない。たとえば、この付箋紙にお詫びの言葉を記して渡すくらいなら──
「おはようございます」
「おっはよー、菜穂!」
派遣仲間の千鶴が、さっそく左腕にじゃれてくる。
「どうだった、土曜日」
「……」
「……あれ、もしかして聞かないほうがいい感じ?」
菜穂は、曖昧な笑みを返すと自席についた。
さすがに、いろいろ相談にのってくれた千鶴には最低限の説明をしなければいけないだろう。
だが、何をどう言えばいいのか。まさか「偶然、待ち合わせ場所にあらわれた高校時代の元カレに、その場をさんざん掻きまわされて、デートは中止になりました」とでも?
(意味がわからない)
結局、2日経っても菜穂は一連の緒形の行動を理解できずにいた。
本人いわく
――「まあ、なんとなく?」
――「たまたま見かけたから、ちょっとからかおうかなって」
とのことだったが、いくらなんでも度が過ぎている。菜穂にしてみれば、あれは「からかい」を通り越して、もはや「嫌がらせ」の類だ。
(たしかに、もともと軽薄なところはあったけど……)
記憶のなかの緒形は、あそこまでひどいことをする人ではなかったはず。それとも、当時は単に気づいていなかっただけなのだろうか。
重いため息とともに、菜穂はパソコンの電源を入れた。起動している間、スマホのメッセージアプリを確認したが、浜島へのメッセージはあいかわらず未読のままだった。
その事実が、よりいっそう菜穂の気持ちを暗くさせた。
(絶対、怒ってるよね)
緒形とは違い、浜島は誠実な人だ。それだけに、土曜日の出来事を許してはくれないだろう。
(もうデートできなくてもいい)
今更そんな図々しいことは考えていない。
ただ、できれば誤解を解きたかった。
それが無理なら、せめて謝罪だけでもさせてほしい。
(でも、どうすれば……)
うつむきかけたところで「三辺さん!」と声をかけられた。やってきたのは、菜穂が担当している営業部署の女性だ。
「ごめん、金曜日にオッケーもらってた原稿、クライアントから再修正入っちゃった!」
手を合わせ、深々と頭を下げてくるあたり、もしかしたらかなり修正箇所が多いのかもしれない。
「わかりました。原稿は今……」
「お昼までに、先方の担当者が赤入れして送ってくれるはず」
「では、届き次第ディレクターにまわしますね」
「ありがとう。ついでに校正さんにもまわしておいてもらえる?」
「了解です。15時までにいただければ、今日中に……」
そこまで言いかけたところで、ハッとした。
もしかしたら、そのタイミングで、浜島と言葉をかわせるかもしれない。
「三辺さん? どうかした?」
「あ、いえ……では、校正までまわしておきますので」
「ありがとう、ほんとごめん! 今後なにかおごるから」
いえ、と控えめに微笑んで、菜穂は引き出しから付箋紙を取り出した。
修正作業の工程を書き込みながら、ほんの少しだけ、心が軽やかになっていることに気づいていた。
(もし、校正室に浜島さんしかいなかったら直接謝罪できるかもしれない)
あるいは、他に誰かがいたとしても、伝える手段がないわけではない。たとえば、この付箋紙にお詫びの言葉を記して渡すくらいなら──
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