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第1話

4・デートのお誘い(その1)

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 つい、声を洩らしてしまったせいだろう。
 千鶴は「だれだれ?」とスマートフォンを覗き込んできた。

「もしかして緒形さん?」
「まさか。連絡先、交換してないし」
「じゃあ──浜島はまじまさん?」

 興味津々とばかりに訊ねられて、菜穂はうっすらと頬を染めた。それだけで、聡い千鶴はいろいろ察してくれたようだ。

「やっぱりそうか。この間の飲み会で意気投合してたもんね」
「そんなことないよ、ふつうだよ」
「でも、ふたりでずーっと話し込んでたじゃん」
「それは……たまたま映画の趣味が合ったから」

 浜島は、制作部署に出入りしているフリーランスの校正者だ。普段は、別室でライターやディレクター、制作会社があげてきた原稿に赤入れをしている。
 もちろん、菜穂も仕事上の会話をかわしたことは何度もあった。ただ、それ以外の──たとえば趣味の話などをしたのは、先日の飲み会が初めてだ。

「で、なに? やっぱりデートのお誘い?」
「デートってわけじゃ……単に映画に誘われただけだよ」
「それを世間一般では『デート』っていうんだって!」

 そうなのだろうか。──そう受け取ってもいいのだろうか。
 同意したい反面「うぬぼれでは?」との不安もある。けれど、千鶴がここまで言い切ってくれるのなら、そう思っても差し支えないのかもしれない。

「で、いつ行くの?」
「いちおう……明日の夜」
「早っ」
「だって、来週からはまた忙しくなるし」

 納期が近づいてくれば、菜穂も浜島も残業をしなければいけなくなる。定時あがりで映画を見に行けるのは、直近だと今週末までだ。

「となると、明日ついに──か」
「なにが?」
「決まってるじゃん」

 千鶴は意味ありげに笑うと、菜穂の耳元に唇を寄せてきた。

「初・体・験。いよいよじゃん?」
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